Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例120

ユベラNカプセルなど3剤の継続処方の確認不足

ヒヤリした!ハットした!

患者、薬剤師共に、メチコバール錠<メコバラミン>、カルナクリン錠<カリジノゲナーゼ>、ユベラNカプセル<トコフェロールニコチン酸エステル>などの処方意図を認識していなかった。医師への問い合わせで、リビドー低下の治療のために処方されていることが明らかとなった。

<処方>70歳代の男性。病院の外科。処方オーダリング。

メチコバール錠500µg 3錠 1日3回毎食後 56日分
ユベラNカプセル100mg 3Cap 1日3回毎食後 56日分
カルナクリン錠25 3錠 1日3回毎食後 56日分
ハルナールD錠0.2mg 1錠 1日1回朝食後 56日分

<効能効果>

●メチコバール錠500μg<メコバラミン>
・末梢性神経障害
●カルナクリン錠25<カリジノゲナーゼ>
・下記疾患における末梢循環障害の改善:高血圧症、メニエール症候群、閉塞性血栓血管炎(ビュルガー病)
・下記症状の改善:更年期障害、網脈絡膜の循環障害
●ユベラNカプセル100mg<トコフェロールニコチン酸エステル>
・下記に伴う随伴症状:高血圧症
・高脂質血症
・下記に伴う末梢循環障害:閉塞性動脈硬化症

どうした?どうなった?

患者には<処方>が数年間にわたって継続処方されているが、薬歴に処方意図や症状などの記載は見当たらなかった。

今回、当該患者への投薬を初めて担当した薬剤師が、どういった症状でこの薬を飲み始めたのかを患者に確認したところ、「自分でもよくわからないが、処方されているから飲んでいる。」と答えた。

そこで、患者の同意を得て、病院に照会したところ、リビドーの低下の治療が目的であることがわかった。この事を患者に伝えたが、患者は「そうだったか。」と言っただけで、あまり反応はなかった。

*広義では男性としての分化、発育や機能に関する障害。狭義では勃起、射精の障害、すなわち性交不能症(インポテンスまたはED)と同義に扱われることが多い。

なぜ?

患者は処方意図を知らずに服用していたと思われる。また、薬剤師も長期間にわたり処方意図を確認することなく、投薬し続けていた。単にビタミン剤などの処方という認識で、患者の病態を安易に考えていた可能性がある。一方で、疾患が性交不能症であることから、患者は処方意図を認識していたが、答えたくなかった可能性も否定できない。

ホットした!

薬剤師としては、処方を読み解く習慣や、病態を考える習慣をつけることは必須である。患者が認識していない疾患の可能性があれば、疾患名などの不明点は医師に確認することが必要である。

もう一言

現在では、EDに対する薬物療法はPDE5阻害薬が第一選択薬であるが、1980年代前半頃までは末梢神経保護作用を持つビタミンE製剤(ニコチン酸トコフェロール300-600mg/日)、ビタミンB12製剤(メコバラミン1.5mg/日)、カルナクリン錠・カプセル(カリジノゲナーゼ30-60IU/日、更年期障害に適応あり)などが使用されていた(文献1)。しかし、その効果に関する明確なエビデンスは無い。本事例においてこれらの薬剤が使用された理由は不明である。

[文献]
1)田村雅人他:インポテンス患者の診断と治療の変遷、日泌尿会誌、84(8):1397-1403(1993)

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2020年7月21日

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