Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例113

2種の吸入液を配合することの有効性・安全性の確認不足

ヒヤリした!ハットした!

患児の家族は、現在使っている吸入液(ベネトリン吸入液<サルブタモール硫酸塩>・ビソルボン吸入液<ブロムヘキシン塩酸塩>)に、今回処方されたパルミコート吸入液<ブデソニド>を混ぜて使ってよいと医師から説明された。薬剤師は、患児の家族から医師の説明を聞き、2種の吸入液を配合することに問題がないかを確認せずに投薬してしまった。

<処方>3歳の女児。小児科。処方オーダリング。

オラペネム小児用細粒10% 1.2g 1日2回 朝・夜 4日分
パルミコート吸入液0.25mg 30管 1日2回 吸入

<効能効果>

●パルミコート吸入液0.25mg・0.5mg<ブデソニド>
気管支喘息

どうした?どうなった?

患児は半年前から喘息症状があり、自宅で発作時の吸入(薬名は不明)を実施していた。最近、喘息症状が悪化してきたため、パルミコート吸入液0.25mgが定期処方として追加された(処方)。

医師は、患児の家族に「自宅で使っている吸入液(兄が使っている吸入液<ベネトリン吸入液・ビソルボン吸入液・生理食塩水を配合したもの>の半量)とパルミコート吸入液は配合してもよい」と説明していた。
薬剤師も、患児の家族に医師の指示通りに使用するよう伝え、パルミコート吸入液を交付した。

その後、パルミコート吸入液の添付文書の「適用上の注意 3.配合使用」の欄を確認すると、「他剤との配合使用については、有効性・安全性が確認されていないことから、配合せずに個別に吸入させる事が望ましい。」とあった(ただし、配合することで、特段の変化はみられていない<[もう一言]を参照>)。医師にこのことを報告したところ、患児の家族にも説明するように指示をうけたため、すぐに患児宅に電話し、配合せずに使用するように伝えた。

なぜ?

医師は、母親の手間を省くために「配合してもよい。」と伝えたと思われる。
薬剤師、医師共に、兄の使っている吸入液とパルミコート液の配合に問題がある可能性を認識していなかった。
薬剤師は、パルミコート吸入液を使う患者への服薬指導が初めてで、使用法の説明に気をとられ、配合についての知識が不十分だった。インタール吸入液のアンプルにベネトリン吸入液を配合するなど、2種の吸入液を配合することもあるため、吸入液の配合が可能だと思い込んでしまった。
本事例が発生した投薬時は、土曜日で局内が混んでおり、薬剤師には焦る気持ちがあった。

ホットした!

薬剤師は、製剤(外用剤)の配合変化等の情報は確実にチェックし、医師にリアルタイムでフィードバックし、処方を適正化する必要がある。

もう一言

パルミコート吸入液と主要喘息吸入液との配合変化試験が行われている。パルミコート吸入液とベネトリン吸入液、ビソルボン吸入液の配合について、配合することによる大きな変化は特に見られていない。

参考:パルミコート吸入液の医薬品インタビューフォーム 2017年6月(改訂第13版)

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2020年4月15日

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