小児に処方されたアトロピン点眼液1%を添付文書で確認
小児に慎重投与であるアトロピン点眼液1%が処方され、使用法や副作用が気になった。
<処方>7歳の女児。病院の眼科。処方オーダリング。
日点アトロピン点眼液1% 1本(5mg) | 1日1回 右眼に点眼 |
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<効能効果>
●日点アトロピン点眼液1%<アトロピン硫酸塩水和物>
診断または治療を目的とする散瞳と調節麻痺
7歳の小児に「アトロピン点眼液1%」が処方されていた。母親にインタビューしたところ、医師から眼科の検査で使用するので薬を持ってきて欲しいと言われたとのことであった。
添付文書で確認したところ、アトロピン点眼液1%は小児には慎重投与となっており、「小児には、0.25%液を使うことが望ましい。」と記載されていた。
小児用として0.25%液の製剤があるのかと思い調べたが、製剤として1%の規格しか存在しない事が分かった。また、添付文書上でも1%点眼液が禁忌ではないことなどから、特に問題ないと判断して投薬した(眼科の検査に使用すると母親から聞いていたので、疑義照会は行わなかった)。
詳細なインタビューができていないため、1%のまま使用しているのか、院内で0.25%液を調製して使用しているかは不明である。
小児に対するアトロピン点眼液の処方を初めて受けたため、その処方意図がよくわからなかった。
添付文書には、製剤が存在しないにも関わらず、「小児には、0.25%液を使うことが望ましい。」と記載されているだけで、具体的な指示が記載されていなかった。
メーカーに確認したところ、副作用軽減の目的で記載しているが、濃度に関しては医療機関により様々であり、「0.25%液を使うことが望ましい強い根拠はない。」とのことであった。
本事例のように、意図が不明な処方に対しては、自分で調査した後に問題点や疑問点があれば医師に処方意図を確認するなど正しい情報を整理しておきたい。
小児の弱視や斜視の診断や治療には、調節麻痺薬点眼による屈折検査が不可欠である。初診屈折検査では効果発現の早いシクロペントラート塩酸塩(サイプレジン1%点眼液)が使用されることが多いが、調節麻痺効果が最も強いのが副交感神経麻痺薬であるアトロピン硫酸塩点眼薬(以下、アトロピン)である。しかし、その効果発現には約1週間かかり、全身性副作用が出やすい1)。
2008年から2011年の3年間に屈折検査のためアトロピンを点眼した387例を対象に、小児に対するアトロピンによる副作用の発現率と症状が報告されている。以下に結果を示す2)。
1.アトロピンの濃度は、3歳未満が0.5%、3歳以上が1%を用い(院内基準。ただし、全身状態や主治医の判断で3歳以上でも0.5%を用いる場合もある)、点眼回数は1日2回で7日間投与。その結果、副作用発現率は初回投与群で5.5%(18/326例)、2回目以上群で1.6%(1/61例)、副作用発現時期は開始4日以内が多かった。
2.症状として最も多かったのが、発熱と顔面紅潮であり、日最高気温の平均が30度を超える時期にはその発現率は有意に高かったことから、夏には特に副作用発現への注意喚起が必要である。
3.初回点眼群で0.5%アトロピンを使用したのは212例(65.0%)で、副作用の発現率は5.7%、1%アトロピンを使用したのは114例(35.0%)で、副作用の発現率は5.3%であり、0.5%と1%アトロピンによる副作用の発現率に有意な差はなかった。
参考文献
1)坂本麻里:眼科ケア、16:800-805(2014)
2)外山恵里ら:日本視能訓練士協会誌、43:213-218(2014)
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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