高用量ベネットによる副作用の認識不足
患者がベネット錠75mg<リセドロン酸ナトリウム>を服用して、筋・骨格痛の副作用が発現したが、処方医はそのような副作用があることを知らなかった。
<処方>70歳代の女性。病院の整形外科。処方オーダリング。
ベネット錠75mg | 1錠 月1回 2回分 |
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他3薬剤 | 63日分 |
<効能効果>
●ベネット錠75mg<リセドロン酸ナトリウム水和物>
骨粗鬆症
患者は骨粗鬆症で、初めてベネット錠75mgが処方された(患者の腎機能は不明である)。その後、患者が他科の処方箋を持参して来局した際に、投薬を担当した薬剤師は患者から以下の訴えを聞いた。
「最初にベネットを服用した翌日より、背中に強い痛みが発現し、2日間寝込んでしまったので整形外科を受診しました。『もう飲みたくない』と伝えたのですが、医師からは『これは良い薬だから、続けるように』と指示されました。ベネットを飲んで寝込んだ時、家族にとても迷惑をかけてしまったため、もうすぐ、ベネットの2回目を服用しなければいけないのですが、飲みたくないです。」
そこで、薬剤師が添付文書を確認したところ、ベネット錠75mgによる筋・骨格痛([もう一言]参照)である背部痛の副作用が強く疑われた。そこで、整形外科の処方医に連絡をとり、「患者が背中の痛みを訴えていますが、これはベネット錠75mgの副作用の可能性が非常に高く、次回服用時にも同様の症状がでる可能性があります。患者は飲みたくないと仰ってます。」と伝えた。そうすると、医師からは「そんなことがあるのですか?では、中止してください。今後の事は次回受診時に検討します。」と回答を受けた。患者にもその旨を伝えたところ、安心した様子であった。
医師がベネット錠の高用量投与で、筋・骨格痛の副作用がおきる可能性があることを認識していなかった。
患者の訴えに対して、真摯に対応することが重要だと再認識した。医師が指示した内容から、患者にもその通りにするように服薬指導するのではなく、薬剤師としての視点から患者の訴えを受け止め対処する。
疑義照会時にも、薬学的な根拠を示して、医師が理解しやすいように説明する。更に、その後、[もう一言]の情報を取りまとめて医師に提供する。
*ベネット錠75mg添付文書上の副作用記載
発現頻度1~5%未満で筋・骨格痛(関節痛、背部痛、骨痛、筋痛、頸部痛等)の副作用が記載されている。
これには、急性期反応(初回投与3日以内に発現し7日以内に回復するインフルエンザ様症状等の副作用であり、高用量投与において発現している)に該当する副作用を含む。これらの副作用は2回目以降の投与時に発現すること(本事例では1回目で発現している)や、繰り返し発現することもある。
*ベネット錠2.5mg、ベネット錠17.5mg添付文書上の副作用記載
2.5mg錠:発現頻度1~5%未満で、筋・骨格痛(関節痛、背部痛、骨痛、筋痛、頸部痛等)の副作用が記載されている。
17.5mg錠:発現頻度1%未満で、筋・骨格痛(関節痛、背部痛、骨痛、筋痛、頸部痛等)の副作用が記載されている。
しかし、両製剤共に「急性期反応」の記載は見られない。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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