Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例110

患者が自己判断で服用中断?アルダクトンAの服薬指導不足

ヒヤリした!ハットした!

心臓弁膜症の患者に、アルダクトンA錠<スピロノラクトン>が追加されたが、患者は「飲んでも効かない。」として服用していなかった。

<処方>70歳代の男性。病院の循環器科。処方オーダリング。

ラシックス錠20mg 2錠 1日2回 朝昼食後 28日分
アルダクトンA錠25mg 1錠 1日1回 朝食後 28日分
アーチスト錠2.5mg 2錠 1日2回 朝夕食後 28日分
オルメテック錠20mg 1錠 1日1回 朝食後 28日分

<効能効果>

●アルダクトンA錠25mg/錠50mg/細粒10%<スピロノラクトン>
高血圧症(本態性、腎性等)
心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫、特発性浮腫、悪性腫瘍に伴う浮腫及び腹水、栄養失調性浮腫
原発性アルドステロン症の診断及び症状の改善

どうした?どうなった?

患者は心臓弁膜症で、循環器科を受診しており、前回「スピロノラクトン」が追加された。その時、薬剤師Aから「むくみを取る利尿薬」と説明を受けていた。
患者は、もともとラシックス錠<フロセミド>を服用しており、ある程度の利尿効果は実感していたが、スピロノラクトンを3~4日間服用しても排尿状況は変わらなかったため、それ以降は服用していなかった。

患者は今回受診時に、医師にそのことを伝えたが、医師からは「心臓にも良いから飲んでおくように。」とだけ説明を受けた。患者は、医師の説明があまり納得できず、薬局で薬剤師Bに改めて相談した。
薬剤師Bは、薬歴の患者情報から「心臓弁膜症」であることを把握しており、スピロノラクトンは単に利尿作用だけではなく、弁膜症等の心臓が原因の入院や死亡のリスクを減らすことなど説明したところ、患者は「それで先生も心臓に良いから飲むようにと言っていたのか。飲むよ。」と納得した様子であった。

なぜ?

スピロノラクトンが初回に処方された時の、医師から患者への説明内容は不明であるが、処方意図をきちんと患者に説明していなかった可能性がある。

薬剤師Aは、弁膜症である患者に対するスピロノラクトンの処方追加について、単に「むくみを取る利尿薬」と説明するだけではなく、医師からどのような説明を受けているかなどをまず確認すべきであった。患者はスピロノラクトンを単に利尿薬と認識したと思われる。また、薬剤師Aがスピロノラクトンの心不全に対する予後改善効果を認識していなかった可能性もある。

ホットした!

医師から患者への説明が不十分だったため患者は不安状態にあること、医師の処方意図が必ずしも明確ではないことなどを、患者の同意を得て医師に問い合わせを行うか、トレーシングレポートを発行する。

特に薬局薬剤師は、医師の処方意図の把握が困難であることが少なくない。そのため、添付文書の情報のみならず、各疾患に対する医師の処方意図や、最新のガイドライン等で治療指針などを学ぶ必要がある。

薬剤師は、患者との間に薬について常日頃から何でも相談できるような信頼関係を築くことが大切である(今回は実際に患者から薬剤師に相談があった)。

もう一言

現在、日本で日常的に広く使用されている抗アルドステロン薬は、スピロノラクトンとエプレレノンがある。
抗アルドステロン薬は、近年、大規模臨床試験において、心不全症例に対する生命予後改善効果(死亡リスクや、心血管イベントによる入院を有意に減少させた)が認められている1)。しかしながら、少なからず、スピロノラクトンには高カリウム血症と女性化乳房の副作用があるので十分な注意が必要である。

参考文献
1)Pitt B, Zannad F, Remme WJ, Cody R, Castaigne A, Perez A, Palensky J, Wittes J. The effect of spironolactone on morbidity and mortality in patients with severe heart failure. N Engl J Med. 341(10): 709-717, 1999.

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2020年2月10日

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