Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例109

水痘患者への亜鉛華単軟膏の処方を疑義照会

ヒヤリした!ハットした!

小児の水痘に対して、カチリ<フェノール・亜鉛華リニメント>を一般名処方しようとした医師が、誤って亜鉛華単軟膏を処方してしまった。

<処方>7歳の女児。体重23kg。病院の小児科。処方オーダリング。

バルトレックス顆粒50% 1700mg(成分量として) 1日3回 毎食後 5日分
【般】亜鉛華単軟膏(10%) 20g 1日2回 水疱または水疱が破れたところ

<効能効果>

亜鉛華(10%)単軟膏 フェノール・亜鉛華リニメント
適応 下記皮膚疾患の収れん・消炎・保護・緩和な防腐:「外傷、熱傷、凍傷、湿疹・皮膚炎、肛門そう痒症、白癬、面皰、せつ、よう」、その他の皮膚疾患によるびらん・潰瘍・湿潤面 皮膚そう痒症、汗疹、じん麻疹、小児ストロフルス、虫さされ
成分 酸化亜鉛(10%) 10g
単軟膏     適量
全量      100g
液状フェノール 2.2mL
酸化亜鉛    10g
グリセリン、
トラガント末、
カルメロースナトリウム適量
全量      100g
性状 白色~淡黄色の軟膏で、わずかに特異なにおいがある。 白色ののり状で、わずかにフェノールのにおいがある。
特徴 酸化亜鉛を10%含有し、患部の保護作用に優れる。 フェノールの防腐、消毒、鎮痒作用と、酸化亜鉛の収れん作用のほか、皮膚面に塗擦すると水分が蒸発後、トラガントの薄膜が残り、皮膚を保護する作用を有する。

*:亜鉛華単軟膏のうち、サトウザルベ軟膏20%のみ、酸化亜鉛を20%含有する

どうした?どうなった?

初期鑑査をした薬剤師は、バルトレックス<バラシクロビル>が処方されていることから、小児の水痘であろうと考えた。バルトレックスの用量と用法、亜鉛華単軟膏の回数と塗布部位などを確認して、特に問題ないと判断し、そのまま軟膏を調剤しようとした。しかし、水痘への亜鉛華単軟膏の処方に違和感を覚えた。水疱に亜鉛華単軟膏を使う場合もあるが、当該医療機関ではフェノール・亜鉛華リニメントが使用されることがほとんどであり、医師はカチリを処方しようとしたのではないかと疑われた。

患児の母親に、今回は水痘に対する処方であることを確認して、医師に直接疑義照会を行った。薬剤師が「今回は水痘に対する処方のようですが、軟膏はカチリではなく、亜鉛華単軟膏で処方されています。宜しいでしょうか?」と尋ねたところ、医師は「カチリを処方したつもりだった。カチリは、亜鉛華ではなかったか?」と尋ねてきたので、「カチリはフェノール・亜鉛華リニメントで、亜鉛華単軟膏とは性状が全く異なるものです。」と説明し、軟膏はカチリに変更された。

なぜ?

当該病院は、1ヵ月前からオーダリングシステムを導入しており、それと同時に病院の方針で一般名処方が推奨されたようである。医師が一般名処方に慣れておらず、カチリの一般名を正確に把握していなかった。医師は名称に「亜鉛華」がつく軟膏が複数存在することを認識していなかった可能性がある。

薬剤師も「亜鉛華単軟膏を水疱に使用してはいけないか?」「水疱にカチリ以外は使用しないか?」などに対する明確な回答を持っていなかったので、疑義照会をすべきかどうか躊躇してしまった。しかし、一般名類似からの処方間違いの可能性も考えられたため、他の薬剤師と相談して、不審に思ったのであれば照会することになった。

ホットした!

亜鉛華(酸化亜鉛)を含有する薬剤の一般名、販売名には類似したものが多く存在することに注意する必要がある。
薬剤師から医師へ、亜鉛華関係の一般名と販売名、更にそれらの効能効果・用法用量の一覧表を作成して提供する。

一般名 販売名
亜鉛華 亜鉛華軟膏
亜鉛華単 亜鉛華(10%)単軟膏、サトウザルベ軟膏
亜鉛華デンプン 亜鉛華デンプン、亜デンプン
亜鉛華軟膏 ボチシート
酸化亜鉛 亜鉛華、酸化亜鉛
フェノール・亜鉛華リニメント カチリ、フェノール・亜鉛華リニメント

もう一言

「水痘」の治療には、通常、フェノール・亜鉛華リニメント(カチリ)などの外用が行われる。二次感染には抗生物質の外用、全身投与が行われる。重症水痘、水痘の重症化が容易に予測される免疫不全者などでは、抗ウイルス薬が用いられる。免疫機能が正常と考えられる者でも、抗ウイルス薬は症状を軽症化させるのに有効であると考えられているが、全ての水痘患者に対してルーチンに投与する必要はない。

参考文献
NIID国立感染症研究所「水痘とは」

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2020年2月10日

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