Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例102

患児の外見と記載の体重に違和感を覚え疑義照会

ヒヤリした!ハットした!

新患の10歳(体重38kg)の子供に、ムコダインDS50%が1日1,200mgで処方された(処方1)。しかし、子供の見た目は体重が38kgもなく、間違いではないかと思われた。母親が思い違いをしており、実際の体重は28kgであったため、明らかに過量処方となっていた。

<処方1>10歳の男児。病院の耳鼻咽喉科。オーダリング/印字出力。

ムコダインDS50% 1,200mg(成分量) 1日3回 毎食後 30日分
カロナール錠200mg 1錠 頓服 10回分

<処方2>

ムコダインDS50% 840mg(成分量) 1日3回 毎食後 30日分
カロナール錠200mg 1錠 頓服 10回分

<効能効果>

●ムコダインDS50%<カルボシステイン>
<成人>
○下記疾患の去痰:上気道炎(咽頭炎、喉頭炎)、急性気管支炎、気管支喘息、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺結核
○慢性副鼻腔炎の排膿
<小児>
○下記疾患の去痰:上気道炎(咽頭炎、喉頭炎)、急性気管支炎、気管支喘息、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺結核
○慢性副鼻腔炎の排膿
○滲出性中耳炎の排液

どうした?どうなった?

患児の母親が書いた初回アンケートを確認したところ、体重は38kgと記載されており、ムコダインの投与量1,200mg(体重kg当たり1回10mg)は体重換算で問題ないと思われた。しかし、一緒にいた子供は、それほど体重があるように見えなかった。

一緒にいた子供が患児本人ではないのかも知れないとは思ったが、一応母親に子供の体重を確認したところ、隣にいた患児本人が「それほど重くない」と言ったことで、母親が「28kgの間違いだった」とアンケートへの書き間違いに気がついた。

病院の耳鼻咽喉科でも38kgと答えたというので疑義照会し、体重で換算して適正な840mgに変更になった(処方2)。

なぜ?

母親の思い違いで、病院や薬局のアンケートに10kg重い体重を書いてしまった。母親が思い間違ってしまった理由は不明であるが、兄弟姉妹がいて、兄、姉の体重を記載したことも考えられる。

耳鼻科の医師は、母親が申告した体重に特に疑問を持たず、その時点では間違いに気づかなかった。

ホットした!

小児へ薬が処方された場合には、体重を確認して処方チェックをするのはもちろんのことである。
一方で、本事例のように母親であっても子供の体重を間違えることがあるので、各年齢の平均体重や患児本人の見た目なども踏まえて、間違いないかを確認する必要がある。

もう一言

以下に、父親が子供の体重について実際よりも重く記載したために、過量処方となってしまったヒヤリ・ハット事例を示す。

事例:1歳の女児。
「サワシリン細粒10% 5.1g・トランサミン散50% 0.85g 分3毎食後 5日分、ムコダインシロップ5% 10mL・ペリアクチンシロップ0.04% 0.5mL 分3 毎食前 5日分」が処方された。

アンケートの記載は17kgだったが、1歳児にしては重すぎるため、父親に体重を確認したところ、姉妹の体重と勘違いしていたようで、患児本人は10kgと判明。病院にも17kgと伝えていたようで、用量過多となっていた。疑義照会により「サワシリン細粒10% 3.0g・トランサミン散50% 0.4g 分3 毎食後 5日分、ムコダインシロップ5% 6mL・ペリアクチンシロップ0.04% 6mL 分3 毎食前 5日分」に変更になった。その年齢における平均的な体重を把握していないと気づけない内容だった。

特に兄弟姉妹がいる場合は、体重の勘違いが起きることが多い。7kgの違いは1歳児にとっては重篤な副作用を起こしかねない用量の違いになる。聞き取りを鵜呑みにせず注意を払うことが重要である。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2019年10月16日

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