ナウゼリンの1回量過量の見逃し
ナウゼリンドライシロップ1%<ドンペリドン>の1日量ばかり気にして、医師の用法選択ミスを見逃してしまった。そのまま交付されていた場合、1回量が過量投与となるところだった(処方1)。
<処方1>7歳の女児。クリニックの小児科。オーダリング/印字処方。
ナウゼリンドライシロップ1% | 1.8g 1日1回 朝食前 1日分 |
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<処方2>
ナウゼリンドライシロップ1% | 1.8g 1日3回 毎食前 1日分 |
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<効能効果>
●ナウゼリンドライシロップ1%<ドンペリドン>
下記疾患および薬剤投与時の消化器症状(悪心、嘔吐、食欲不振、腹部膨満、腹痛)
小児:周期性嘔吐症、乳幼児下痢症、上気道感染症、抗悪性腫瘍剤投与時
体重19.2kgの女児に対して、ナウゼリンドライシロップ1%を1.8g、1日1回で処方された(処方1)。調剤を担当した薬剤師は、薬の量が多いと感じて添付文書を確認した。用法・用量の「6歳以上の場合は1日最高用量は1.0mg/kgを限度とすること。」という記載を見て、問題ないと判断し、処方箋通り調剤した。
鑑査を担当した薬剤師も、通常よりは1回量が多いと感じたが、小児でも1日投与量は30mgまで使えるし、ナウゼリン坐薬は3歳以上で1回30mg使うため問題ないだろうと判断し、投薬を担当する薬剤師に薬を回した。
投薬を担当した薬剤師は、処方箋を確認して直ぐにナウゼリンの1回量が多すぎることに気づいた。ナウゼリンは通常、成人でも1回10mgであり、医師は1日3回の分服で処方したかったのではないかと推測した。疑義照会の結果、用法は1日3回毎食前に訂正された(処方2)。
医師の処方オーダリングによる用法選択ミスであった。診察時に、「1日分だけ薬を出すから、明日の朝また受診してください。」と女児の母に言いながら処方箋を作成したため、毎食前(朝昼夕)で処方するつもりが、明日の「朝」と述べたことにつられて「朝食前」を選んでしまったとのことだった。
調剤及び鑑査を担当した薬剤師は、1日量ばかりに気をとられて、添付文書の「1日3回食前に分けて」という文章を見逃していた。
小児の場合、単純に体重当りの1回量や1日量に体重を掛けると、成人量を超過してしまうことがある。特に、中枢移行が知られている薬剤や、中毒域の狭い薬剤などでは、有害事象に直結するリスクも高く、注意が必要である。
ナウゼリンドライシロップ1%には、重大な副作用として以下のショック、アナフィラキシー、錐体外路症状、意識障害、痙攣、肝機能障害、黄疸があり、決められた用法用量を遵守し、副作用を回避・軽減する必要がある。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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