漢方薬初回処方患者への副作用の説明不足
患者が初めて処方された漢方薬を飲み始めたところ、すぐに発疹がでてしまい服用を中止したので、殆どの薬が残って無駄になってしまった。
<処方>10歳代後半の男性。病院の小児科。処方オーダリング。
アレグラ錠30mg | 2錠 1日2回 朝・夜 30日分 |
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ツムラ十味敗毒湯エキス顆粒(医療用) | 7.5g 1日3回 毎食前 30日分 |
その他外用剤あり |
<効能効果>
●ツムラ十味敗毒湯エキス顆粒(医療用)
化膿性皮膚疾患・急性皮膚疾患の初期、じんましん、急性湿疹、水虫
蕁麻疹で通院している患者に、今回初めてツムラ十味敗毒湯エキス顆粒(医療用)が処方された(処方)。患者は処方された漢方薬を服用するのが初めてであった(他の漢方薬も服用したことはない)。
患者が朝に薬を服用すると、直ちに直径3~4mmの発疹が腕をはじめとして全身に出て、痒みも強かった。これは、明らかに今までとは違う状況であったとのこと。
患者は、自己判断でその日の内に服用を一旦中止した。数日後に再び服用したが、同様の症状が出たので、その後の服用は中止したとのことであった。患者から薬局に電話連絡があり、副作用発現についてと、残薬として80包以上があるかどうしたらよいか?と質問があった。残念ながら返金はできないが、薬局に持ってくれば処分可能であると告げた。薬剤師から医師に状況の説明を行い、当該漢方薬は服用しないこととなった。
副作用が出る可能性を伝えていなかったこと、残薬が大量に発生したことを患者にお詫びした。
投薬した薬剤師は、今まで漢方薬で副作用が起きて中止になった例を経験したことがなく、初回から30日分が処方されていても特に疑問に思うことはなかった。
同じ漢方薬を服用している他の患者は奏効しており、長期に服用しているので、当該患者も問題ないと思い込み、副作用についての説明を疎かにしてしまった。
医師は、初めて漢方薬を服用する患者であることが判っていたが、初回から30日分を処方してしまった(これは、アレグラ錠はこれまで長期処方されていたので、今回初めて処方された漢方薬も同じく長期に処方してしまった可能性がある)。
この点、薬剤師は処方期間を短く設定することを医師に提案すべきであったかもしれない(ただし、7日処方で副作用なく治療効果が得られるようであれば、患者にとっては再度来診しなければならないなどのデメリットがある)。
初回に処方される薬剤は、可能な限り短期処方にすべきであり、副作用発現時などに薬剤が無駄にならないように配慮する。懸念される処方であれば、医師に問い合わせる。
漢方薬でも副作用がでる可能性があることを認識し、適切な服薬指導を行うことが必要だと再認識した。
ツムラ十味敗毒湯エキス顆粒の添付文書では、副作用に関して頻度不明であるが、「発疹、発赤、そう痒、蕁麻疹等」が報告されており、「この様な症状が現れたら直ちに中止すること。」と記載があり、患者は適正な判断をしたことになる。
PMDAの医薬品副作用データベース(JADER)には、皮膚細菌感染のため十味敗毒湯(他に温清飲、レボセチリジン塩酸塩を併用)を服用した30歳代の女性において、服用開始3日後に薬疹が発現した症例が報告されている。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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