Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例94

酸化マグネシウム錠とメチコバール錠の誤服薬の原因は薬袋からの取り出し方

ヒヤリした!ハットした!

患者家族より、「前回から追加になった酸化マグネシウム錠「ヨシダ」とメチコバール錠<メコバラミン>の飲み間違いがあるようだ」と相談があった。その原因は、薬袋からの取り出し方法にあることがわかった。

<処方1>70歳代の男性。病院の血液内科、オーダリング/印字出力。

酸化マグネシウム錠330mg「ヨシダ」 3錠 1日3回 毎食後 21日分
メチコバール錠500μg 3錠 1日3回 毎食後 21日分
バクトラミン配合錠 2錠 1日2回 朝夕食後 21日分
ファモチジンOD錠20mg「オーハラ」 2錠 1日2回 朝夕食後 21日分
プレドニン錠5mg 20錠 1日1回 朝食後 5日分

*(1)酸化マグネシウム錠とメチコバール錠、(2)バクトラミン配合錠とファモチジンOD錠、(3)プレドニン錠の3つの薬袋の中に入れられている。

<効能効果>

●酸化マグネシウム錠330mg「ヨシダ」
・下記疾患における制酸作用と症状の改善
胃・十二指腸潰瘍、胃炎(急・慢性胃炎、薬剤性胃炎を含む)、上部消化管機能異常(神経性食思不振、いわゆる胃下垂症、胃酸過多症を含む)
・便秘症
・尿路蓚酸カルシウム結石の発生予防
●メチコバール錠500μg
・末梢性神経障害

どうした?どうなった?

患者は高齢であるが、自分で薬を管理したいと強い希望があった。家族も自分で出来ることは自分でさせたいとのことで、一包化は希望していなかった。

患者は、薬袋毎に(1)薬を薬袋から出す、(2)薬袋をみて用法をよく確認、(3)服用、(4)薬を薬袋に戻す、といった一連の流れを毎回しっかり行っているとのことだった。
患者家族によると、飲み間違えるのは酸化マグネシウム錠とメチコバール錠だけで、他の薬は飲み間違いはないとのことだった。

PTPシートの色、錠剤の大きさ、名前のいずれも類似点はなく、共通点は服用方法が同じという点だった。即ち、同じ用法であるため、酸化マグネシウム錠とメチコバール錠は同じ薬袋に入っていた。
その後、対応策として両剤の薬袋を分けたところ、誤服薬が解決した。

なぜ?

酸化マグネシウム錠とメチコバール錠は同じ薬袋に入っていた。患者は、2種類の薬の内、1種類ずつ薬袋から出して服用し、薬を薬袋に戻していたため、1種類を飲み終わって薬袋に戻したあと、どちらを飲んだか分からなくなってしまった。即ち、同じ薬を2度服用してしまうこともあった。薬剤師は、この様な服用の仕方であることを全く認識していなかった。

薬剤師は、両剤は名前も見た目(色、大きさ)もまったく類似点がない薬だったため、同じ薬袋に入っていても間違わないだろうと思っていた。
また、バクトラミン配合錠とファモチジンOD錠では同様の問題は起こっておらず、その理由は不明である。しかし実際には間違いが起こっていた可能性は否定できない。酸化マグネシウム錠とメチコバール錠は1日3回服用、バクトラミン配合錠とファモチジンOD錠は1日2回服用であり、前者の方が服薬間違いが多く起こっていた(服薬間違いが目立っていた)と思われるが、詳細は不明である。

ホットした!

本事例のようなケースでは一包化が最適であるが、患者がそれを希望しないのであれば、以下のような簡単な工夫を患者へ指導する。
*「薬袋から全ての薬を取り出し、机の上に並べて先ず酸化マグネシウム錠を服用して、それを薬袋に戻し、続いてメチコバール錠を服薬して、薬袋に戻す。」

しかし、薬袋へ戻す時に別の薬袋に間違って入れる可能性が出てくる。従って、以下のような工夫が考えられる。
*「全ての薬袋を入れたケース1と空のケース2を用意する。ケース1から服薬するべき薬袋を取り出して机の上におき、上記のように服薬し、それが終わったあと、別のケース2に戻す。これを薬袋毎に繰り返し、最終的にはケース1が空で、ケース2に全ての薬袋が移動することになる。」

これらが最良の方法ということでなく、これでも間違える可能性があるので、個々の患者で間違いなく服用できる方法を事前に検討しておく必要がある。

もう一言

今回の事例では、2薬剤のPTP包装は全く類似していなかったが、同じ薬袋に入っている2剤(服用時期が同じ)のPTP包装の外観が類似している場合には特に注意が必要である。例えば、以下のようにラシックス錠10mgとワーファリン錠1mgが一緒に処方されている場合は、両剤ともハイリスク薬であり、飲み間違えると危険であることなどの理由から、同じ朝1回食後服用の薬剤であっても、別々の薬袋にすべきである。

<処方2>70歳代の男性。病院の内科、オーダリング/印字出力。

ラシックス錠10mg 1錠 1日1回 朝食後 14日分
ワーファリン錠1mg 1錠 1日1回 朝食後 14日分
澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2019年7月8日

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