Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例93

エピペン注射液の適正使用に繋がらなかった服薬指導

ヒヤリした!ハットした!

エピペン注射液を患者に交付した時、本人および家族にも使用方法を説明したつもりだったが、患者が実際にハチに刺された時に適正に使用できなかったことが判明した。

<処方>70歳代の女性。病院の内科。印字出力/オーダリング。

エピペン注射液0.3mg 1キット 1日1回 用法口授

*病院内薬局での薬剤交付であり、「用法口授」については、エピペンガイドに従って服薬指導が行われている。

<効能効果>

●エピペン注射液0.3mg<アドレナリン>
蜂毒、食物及び薬物等に起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療(アナフィラキシーの既往のある人またはアナフィラキシーを発現する危険性の高い人に限る)

どうした?どうなった?

患者は過去にハチにさされてアナフィラキシーを発現したことがある。今後、再度ハチにさされた場合のアナフィラキシー反応に対する補助治療としてエピペン注射液が処方された(処方)。

エピペン注射液が交付された時、患者が高齢であるため、本人に加えて家族にも使用方法を医療用添付文書の下記の「警告」に従って説明していた。

[警告]本剤を患者に交付する際には、患者、保護者またはそれに代わり得る適切な者に対して、本剤に関する患者向けの説明文書等を熟読し、また、本剤の練習用エピペントレーナーを用い、日頃から本剤の使用方法について訓練しておくよう指導すること。

その後、患者は再びハチに刺され、救急外来を受診した。そこで医師は「エピペンを使用した」との患者の説明を信じ、使用後のエピペン注射液は確認しないまま、充分なアナフィラキシー治療を行うため入院させることとなった。救急外来では症状はなかったが、エピペンを使用した効果と医師は判断していた。

病院薬剤師はエピペンを使用した患者が入院したとの連絡を受け病棟へ行き、持参されたエピペン注射液を確認したところ、未使用の状態であったことを確認した。即ち、安全装置が外されておらず、作動もしていなかった。おそらく、安全装置を外さずに押し当てたため作動しなかったと推察される。結局、患者はエピペン注射液を使用できておらず、ハチに刺されてはいるものの、幸いなことにアナフィラキシー症状が出ていなかったことが判明した。
その旨を医師に報告し、経過観察ののち退院となった。

なぜ?

エピペン注射液を処方する医師は以下の内容について正しく理解するとともに、患者に交付する際には、患者、保護者またはそれに代わり得る適切な者に以下の内容を必ず交付前に説明することとなっている(医療用添付文書)。

[適用上の注意]本剤を適切に注射するためには、携帯用ケースのふたを開けて注射器を取り出し、青色の安全キャップを外し、投与部位が動かないようにしっかり押さえ、大腿部の前外側にオレンジ色のニードルカバー先端を数秒間強く押し付けて注射する。適正に本剤が作動した場合には、オレンジ色のニードルカバーが伸びる。

これらの説明は病院薬剤師が特に問題なく行っていた。一方で、患者や家族Aに確認したところ、実際にエピペンを操作したのは患者の家族B(薬剤師が指導した家族Aとは異なる)であり、その家族Bは使用方法を、薬剤師に指導を受けた家族Aより聞いていたものの、実際の場面では正しく使用できなかったことが判明した。

具体的な問題点として、注射の準備段階で「携帯用ケースのカバーキャップ<黄色>」を開けるが、それを注射液の本体の「安全キャップ<青色>」のことと誤解したと思われる(エピペンガイドブックp.13を参照)。

即ち、家族Bは家族Aから「キャップを外して使用する」と聞いていたが、それをカバーキャップと誤解して投与介助をしてしまったために、安全キャップが外されないまま使用してしまった。

薬剤師は、エピペンを使用する可能性が想定される状況下で、家族の誰が側にいることが多いのかを確認せず(当該患者においては家族Bと思われる)、家族の誰かに説明していれば充分と判断してしまった。

ホットした!

エピペンを正しく使用できないと命に関わるため、使用する本人が高齢者や小児などの場合には、患者の代わりに注射できる家族は誰なのかなどを正しく把握して服薬指導を行う。

主に世話をする家族が不明な場合や不在の場合を想定し、読めばわかるような緊急時の手順書を作成し、その手順を本人、家族で周知しておくよう指導する。医療機関で説明した時に別の家族がサポートする可能性が高いことが判明した場合には、後日、電話などで改めて説明するようにする。

医師、薬剤師は、エピペンガイドブックを使用して、患者本人、家族、介護者に対して、わかりやすく説明し、「練習用エピペントレーナー」を使って継続的に練習するように服薬指導する。

もう一言

エピペン注射液ではその管理も重要である。以下にエピペン注射液の保管に関するトラブル事例を示す。

アドレナリン製剤は、保管温度を間違えやすい?

ヒヤリした!ハットした!

卵アレルギー患者のエピペン注射液を保育園に預けたところ、室温(15~30℃)保存すべきところ、冷蔵庫(0~10℃)保管されてしまった。

どうした?どうなった?

患児(3歳、男児)は食物アレルギーがあり、エピペン注射液が処方された。母親はエピペン注射液を4月に入園した保育園に持って行ったが、その保育園で7月から冷蔵庫に入れて保管されていた。患児の母親から薬局へ、使用できるかという問い合わせがあり、発覚した。

保育園側としては、子供の手が届かない棚での管理だと、空調の関係で夏場は室温が30℃を越えることがあり、薬を高温な場所で保管するのは良くないと考え、7月からエピペン注射液を冷蔵庫(0~10℃)にて保管していた。

薬剤師がメーカーに確認したところ、当然ながら、再処方してもらうように言われた。低温下(15℃以下)の作動確認試験にて一部に作動上の不具合が生じたことや、低温下での安定性試験を行っていないためとの回答であった。その旨を母親に伝え、今後は保育園では、冷蔵庫で保管しないようにお願いしてもらった。

なぜ?

薬剤師は、エピペン注射液を渡す際に、その保管方法について、母親へ冷蔵庫などの冷所や高温下は避け、室温保存(15~30℃)することを紙面とともに説明していた。しかし、母親から保育園側への説明が伝わっていなかった可能性がある。

乳児がいない保育園のため看護師が常駐しておらず、また、新設の保育園でありエピペン注射液をあまり扱ったことのない保育士が管理していた。そのため室温保存する必要があることが見落とされていた可能性がある。

ホットした!

保育園などの施設によっては、園児の医薬品管理が適切に行われない可能性がある。薬剤師は、患児を預ける施設の詳細な事情を保護者から聴き取り、適切な医薬品管理ができるように、保育園用に情報提供紙を作成し、保護者から渡してもらうなどの対策を考える。

薬剤師は、保育園とも連携をとり、何か問題や薬に関する不明な点があれば、薬局へ連絡や相談してもらえるような体制をつくるべきである。また、保育園まで出張して、正しいエピペン注射液の使い方や保管方法の指導をしていくことも、連携体制づくりの一歩として検討する。

当該保育園では、もともと保育園独自に作成した「食物アレルギー対応マニュアル」へ、エピペン注射液の保管が「室温(15~30℃)」であることを目立つように注意書きを追記した。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2019年7月8日

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