抗癌剤がなぜリウマチに?メトトレキサートの薬理作用の認識不足
患者から、リウマトレックス<メトトレキサート>は抗癌剤なのに、どうしてリウマチに効くのかと聞かれたが、答えられなかった。
<処方>50歳代の女性。クリニックの整形外科。オーダリング/印字出力。
リウマトレックスカプセル2mg | 4カプセル 1日2回 朝夕食後 4日分(毎週水曜日) |
---|---|
リウマトレックスカプセル2mg | 2カプセル 1日1回 朝食後 4日分(毎週木曜日) |
<効能効果>
●リウマトレックスカプセル2mg
関節リウマチ
局所療法で効果不十分な尋常性乾癬
関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症
関節症状を伴う若年性特発性関節炎
●メソトレキセート錠2.5mg
下記疾患の自覚的並びに他覚的症状の緩解
急性白血病
慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病
絨毛性疾患(絨毛癌、破壊胞状奇胎、胞状奇胎)
服薬指導時、患者から「私に出されたリウマトレックスは抗癌剤と同じですよと医師に言われました。なぜ抗癌剤がリウマチにも効くのですか?それから、抗癌剤は副作用が多いし重いと聞いていますが、リウマトレックスは大丈夫なのですか?」と尋ねられた。
薬剤師は、関節リウマチとは「免疫系の異常な活動による関節の炎症」が起こる疾患で、メトトレキサートは炎症の原因である免疫異常に働きかけ、抑えることで奏功することは認識していたが、即座に患者にわかる言葉で的確に答えることができなかった。
複数の薬効を持つ薬剤に関して、その薬理作用の違いを明確に認識していなかった。また、それを患者に理解してもらえる説明を事前に用意していなかった。
実は、薬剤師自身も患者と同じ疑問を持っており、時間のある時に調べて理解しようと考えていたが、これまでそれができていなかった。
医薬品の薬理作用メカニズムなどに関する知識は、明確に理解しておき、患者にわかる言葉で説明できるように準備しておく必要がある。
効能効果が複数存在する医薬品(特にメトトレキサートのようなハイリスク薬)では、全てを説明できるように、常日頃から意識して研修しておく。
以下に、メトトレキサートの効能効果や用法に関する説明の一例を示す。
「関節リウマチでは、免疫機能の異常によって関節に炎症が起こっています。いま服用されているリウマトレックスカプセルは、この炎症に関係している細胞の働きや増殖を抑えることで、炎症によって起こる関節の腫れや痛みの症状を改善します。
一方で、同じ成分は白血病などの癌にも使用され、癌細胞の異常な増殖を抑えます。どちらも異常な細胞の増殖を抑えることで効果が現れるというわけです。もちろん、同じ成分ですので、同じ副作用が起こる可能性があります。
ただ、リウマチでは1週間に2日間だけ服用し、癌では1週間に3~6日間服用するのが一般的です。つまり、リウマチの場合は癌の場合よりも少ない量を服用することになるので、重い副作用が起こる可能性は低いとされています。」
「リウマトレックスカプセル2mg」
免疫機能をつかさどっているリンパ球や炎症に関係している細胞の働きを抑え、異常な状態となっている免疫反応を抑えることで、関節の腫れや痛みの症状を改善します。通常、関節リウマチ、関節症状を伴う若年性特発性関節炎の治療に用いられます。
<関節リウマチの用法用量>
通常、1週間単位の投与量をメトトレキサートとして6mg(3錠)とし、1週間単位の投与量を1回又は2~3回に分割して経口投与する。分割して投与する場合、初日から2日目にかけて12時間間隔で投与する。1回又は2回分割投与の場合は残りの6日間、3回分割投与の場合は残りの5日間は休薬する。これを1週間ごとに繰り返す。なお、患者の年齢、症状、忍容性及び本剤に対する反応等に応じて適宜増減するが、1週間単位の投与量として16mgを超えないようにする。
「メソトレキセート2.5mg」
葉酸を活性型葉酸にする働きを阻止し、正常細胞や感受性の高い癌細胞に取り込まれることで、細胞増殖抑制作用、殺細胞作用を示します。通常、急性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、絨毛性疾患(絨毛癌、破壊胞状奇胎、胞状奇胎)の治療に用いられます。
<白血病の用法用量>
メトトレキサートとして、通常、次の量を1日量として1週間に3~6日経口投与する。
幼児1.25~2.5mg(1/2~1錠)
小児2.5~5mg(1~2錠)
成人5~10mg(2~4錠)
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
-
- 事例211
- プレドニン錠中止時の漸減を忘れる落とし穴
-
- 事例206
- スタレボ配合錠L100を半錠で調剤できる?
-
- 事例203
- エフピーOD錠とアジレクト錠の併用?
-
- 事例202
- 包数の多い散剤処方に介入して服薬の煩わしさの改善
-
- 事例201
- 点眼薬のみが処方されていた理由
-
- 事例200
- 家族への服用中止の指示は、電話連絡だけでは不十分
-
- 事例199
- 酸化マグネシウム原末が義歯にはさまって効果減弱
-
- 事例197
- 薬名類似による誤処方を発見し疑義照会
-
- 事例196
- 医師の一言『効果の高い薬』で不安になった患者
-
- 事例194
- 認知症患者の服薬状況の把握不足
-
- 事例192
- 患者が自己判断でリリカOD錠の服用を中止
-
- 事例188
- 指導不足によるタリビッド点耳液の不適正使用
-
- 事例187
- 薬の併用による副作用について疑義照会
-
- 事例186
- アロプリノール錠の服薬状況の認識不足
-
- 事例185
- 患者が一包化薬の分包ごと服用していいかと質問
-
- 事例184
- ゼローダ錠の服薬スケジュールに関して疑義照会
-
- 事例183
- イーケプラ錠の不均等処方について疑義照会
-
- 事例182
- レキップCR錠の急激な減量を発見し疑義照会
-
- 事例181
- ニトロペン舌下錠の保管方法に関する服薬指導不足
-
- 事例179
- 処方意図が不明なため疑義照会を検討
-
- 事例177
- 患者のジェネリック医薬品に対する考え方が変化
-
- 事例176
- 知識不足で『レスパイトケア』の意味が分からず
-
- 事例174
- 骨折でドライブスルー利用した患者への配慮不足
-
- 事例173
- 腎臓疾患患者へのアスパラカリウム錠処方を疑義照会
-
- 事例172
- 薬剤師の聞き方で誤解を生んだ疑義照会
-
- 事例170
- 疑義照会にて薬名類似による処方ミスと発覚
-
- 事例169
- キサラタン点眼液 点眼し忘れ時の対応の説明不足
-
- 事例168
- 慢性腎不全患者へのワントラム錠処方を疑義照会
-
- 事例167
- 口腔内の乾燥によるニトロペン舌下錠の溶解遅延
-
- 事例166
- ウルティブロ吸入後のうがいは必要?
-
- 事例165
- 患者の服薬不遵守を察知し、メトグルコ錠の処方変更
-
- 事例162
- フェントステープの使用法と注意すべき点とは?
-
- 事例161
- 個装箱内の残薬に気づかず破棄
-
- 事例158
- 複合要因から後発品の普通錠を徐放錠で誤調剤
-
- 事例157
- 禁忌薬の認識不足で妻が自身への処方薬を夫と共用
-
- 事例155
- テルネリン錠の増量処方を見落とし調剤
-
- 事例154
- プラリア皮下注には天然型のデノタスが必須と勘違い
-
- 事例153
- 患者からの申告がなく緑内障既往歴を把握せずに投薬
-
- 事例150
- 胃全摘患者へのランソプラゾール処方を疑義照会
-
- 事例147
- 中止すべきバイアスピリンを患者が誤って服用
-
- 事例144
- 前回処方年月日を見誤り、的外れな服薬指導
-
- 事例142
- セレスタミンにプレドニン追加でステロイドが重複
-
- 事例141
- セルニルトン服用が花粉症に効くという仮説
-
- 事例139
- 手書きの麻薬処方箋の「(8時」を「18時」と誤読
-
- 事例138
- リパクレオンカプセルの1シート当たりの数に注意
-
- 事例137
- パーキンソン病治療薬による病的賭博の副作用を発見
-
- 事例134
- ムコスタ点眼液UDの副作用の説明不足
-
- 事例131
- 患者の認識と処方内容に違和感を覚え疑義照会
-
- 事例128
- アロマシン錠に関しての患者の理解度の確認不足
-
- 事例124
- 介護者の負担軽減のために服薬ゼリーの使い方を指導
-
- 事例122
- 腎機能が悪くない患者にケイキサレート散が処方
-
- 事例121
- クラビット錠の疑義照会で、偽造処方箋が発覚
-
- 事例120
- ユベラNカプセルなど3剤の継続処方の確認不足
-
- 事例118
- ノルスパンテープの貼付期間の説明不足
-
- 事例111
- 高用量ベネットによる副作用の認識不足
-
- 事例109
- 水痘患者への亜鉛華単軟膏の処方を疑義照会
-
- 事例107
- 端数のPTPシートを組み合わせて調剤
-
- 事例105
- フォルテオ保管方法の説明不足
-
- 事例104
- 腎機能低下者に通常用量でシタグリプチンが処方
-
- 事例102
- 患児の外見と記載の体重に違和感を覚え疑義照会
-
- 事例101
- ナウゼリンの1回量過量の見逃し
-
- 事例98
- 異なるPTPシートによる数量の誤調剤
-
- 事例97
- 漢方薬初回処方患者への副作用の説明不足
-
- 事例96
- 視覚障害者に最適なうがい液へ疑義照会
-
- 事例95
- 1回量と1日量を読み違えて誤調剤
-
- 事例89
- スタチンの一般名を病院外来事務職員が誤認
-
- 事例76
- 一部手書きの処方箋により用法を誤認識
-
- 事例64
- 服用時点の押印ミスで朝夕の薬を逆に投薬
-
- 事例60
- 患者が激怒!了承を得ずに行った疑義照会
-
- 事例37
- シプロキサンとルボックスは併用禁忌?
-
- 事例14
- インスリン製剤はどれも同じと思った患者
-
- 事例10
- 遮光が必要なのはモーラステープ?
-
- 事例06
- 手書き処方せんを読み間違って半量を調剤
-
- 事例01
- え!?…私ってうつ病?