Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例92

抗癌剤がなぜリウマチに?メトトレキサートの薬理作用の認識不足

ヒヤリした!ハットした!

患者から、リウマトレックス<メトトレキサート>は抗癌剤なのに、どうしてリウマチに効くのかと聞かれたが、答えられなかった。

<処方>50歳代の女性。クリニックの整形外科。オーダリング/印字出力。

リウマトレックスカプセル2mg 4カプセル 1日2回 朝夕食後 4日分(毎週水曜日)
リウマトレックスカプセル2mg 2カプセル 1日1回 朝食後 4日分(毎週木曜日)

<効能効果>

●リウマトレックスカプセル2mg
関節リウマチ
局所療法で効果不十分な尋常性乾癬
関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症
関節症状を伴う若年性特発性関節炎
●メソトレキセート錠2.5mg
下記疾患の自覚的並びに他覚的症状の緩解
急性白血病
慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病
絨毛性疾患(絨毛癌、破壊胞状奇胎、胞状奇胎)

どうした?どうなった?

服薬指導時、患者から「私に出されたリウマトレックスは抗癌剤と同じですよと医師に言われました。なぜ抗癌剤がリウマチにも効くのですか?それから、抗癌剤は副作用が多いし重いと聞いていますが、リウマトレックスは大丈夫なのですか?」と尋ねられた。

薬剤師は、関節リウマチとは「免疫系の異常な活動による関節の炎症」が起こる疾患で、メトトレキサートは炎症の原因である免疫異常に働きかけ、抑えることで奏功することは認識していたが、即座に患者にわかる言葉で的確に答えることができなかった。

なぜ?

複数の薬効を持つ薬剤に関して、その薬理作用の違いを明確に認識していなかった。また、それを患者に理解してもらえる説明を事前に用意していなかった。

実は、薬剤師自身も患者と同じ疑問を持っており、時間のある時に調べて理解しようと考えていたが、これまでそれができていなかった。

ホットした!

医薬品の薬理作用メカニズムなどに関する知識は、明確に理解しておき、患者にわかる言葉で説明できるように準備しておく必要がある。
効能効果が複数存在する医薬品(特にメトトレキサートのようなハイリスク薬)では、全てを説明できるように、常日頃から意識して研修しておく。
以下に、メトトレキサートの効能効果や用法に関する説明の一例を示す。

「関節リウマチでは、免疫機能の異常によって関節に炎症が起こっています。いま服用されているリウマトレックスカプセルは、この炎症に関係している細胞の働きや増殖を抑えることで、炎症によって起こる関節の腫れや痛みの症状を改善します。

一方で、同じ成分は白血病などの癌にも使用され、癌細胞の異常な増殖を抑えます。どちらも異常な細胞の増殖を抑えることで効果が現れるというわけです。もちろん、同じ成分ですので、同じ副作用が起こる可能性があります。

ただ、リウマチでは1週間に2日間だけ服用し、癌では1週間に3~6日間服用するのが一般的です。つまり、リウマチの場合は癌の場合よりも少ない量を服用することになるので、重い副作用が起こる可能性は低いとされています。」

もう一言

「リウマトレックスカプセル2mg」

免疫機能をつかさどっているリンパ球や炎症に関係している細胞の働きを抑え、異常な状態となっている免疫反応を抑えることで、関節の腫れや痛みの症状を改善します。通常、関節リウマチ、関節症状を伴う若年性特発性関節炎の治療に用いられます。

<関節リウマチの用法用量>
通常、1週間単位の投与量をメトトレキサートとして6mg(3錠)とし、1週間単位の投与量を1回又は2~3回に分割して経口投与する。分割して投与する場合、初日から2日目にかけて12時間間隔で投与する。1回又は2回分割投与の場合は残りの6日間、3回分割投与の場合は残りの5日間は休薬する。これを1週間ごとに繰り返す。なお、患者の年齢、症状、忍容性及び本剤に対する反応等に応じて適宜増減するが、1週間単位の投与量として16mgを超えないようにする。

「メソトレキセート2.5mg」

葉酸を活性型葉酸にする働きを阻止し、正常細胞や感受性の高い癌細胞に取り込まれることで、細胞増殖抑制作用、殺細胞作用を示します。通常、急性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、絨毛性疾患(絨毛癌、破壊胞状奇胎、胞状奇胎)の治療に用いられます。

<白血病の用法用量>
メトトレキサートとして、通常、次の量を1日量として1週間に3~6日経口投与する。
幼児1.25~2.5mg(1/2~1錠)
小児2.5~5mg(1~2錠)
成人5~10mg(2~4錠)

「くすりのしおり」、各薬剤の医療用添付文書より

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2019年5月17日

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