別のトリプタン系薬剤を想起し、誤った用法・用量を服薬指導
以前からイミグラン錠を処方されていた患者が、前回と異なる用法・用量の服薬指導を受けた。イミグランの服用回数の説明が薬剤師により異なることに、患者は強い不信感を感じて、どちらが正しいのかを尋ねた。メーカーに問い合わせたところ、今回服薬指導した薬剤師の思い違いにより誤った服薬指導をしていたことが判明し、患者に謝罪した。
<処方>50歳代の女性。病院の内科。処方オーダリング。
イミグラン錠50 | 片頭痛時 1回1錠 10回分 |
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<効能効果>
●イミグラン錠50<スマトリプタンコハク酸>
片頭痛
患者は片頭痛のため、以前よりイミグラン錠を服用していた。
初めてイミグラン錠を交付されたときに、A薬剤師から「1回1錠で4回まで服用できる」と説明を受けた。ところが今回、同じ薬局のB薬剤師からは、「1日2回まで」と説明された。
患者は、薬剤師によって言っていることが異なることに不信感を抱き、不機嫌そうに「一体、どっちが正しいのか?」とB薬剤師に問いただした。
B薬剤師は添付文書を確認したが、1日何回までという記載は見当たらなかった。そこでメーカーに確認したところ、「1回1錠ずつの服用であれば、2時間以上あけて1日4回まで服用可能。ただし、通常片頭痛が1日4回も起きることは少ない」との回答を得た。B薬剤師は患者に謝罪して、正しく説明した。
B薬剤師はイミグランの添付文書の用法・用量を把握していたが、他のトリプタン系薬剤(レルパックス錠、マクサルト錠/RPD錠、アマージ錠)の用法を想起し、「1錠を1日2回まで」と思い込んでしまった。
以下の【用法・用量】に示す様に、「1回50mg」とあるので、「1日の総投与量200mg以内」であれば「1日4錠以内」、つまり「1日4回まで」ということになる。B薬剤師は添付文書の読み込みが不十分であったと言える。
【用法・用量】
通常、成人にはスマトリプタンとして1回50mgを片頭痛の頭痛発現時に経口投与する。なお、効果が不十分な場合には、追加投与をすることができるが、前回の投与から2時間以上あけること。また、50mgの経口投与で効果が不十分であった場合には、次回片頭痛発現時から100mgを経口投与することができる。ただし、1日の総投与量を200mg以内とする。
添付文書に記載されている薬剤情報は正しく把握する(下記、トリプタン系片頭痛治療薬の用法・用量一覧表を参照)。解釈が不明瞭な場合には、メーカーに確認しておく。
薬剤名 | 規格・剤形 | 1回量 | 効果不十分時の追加投与 | 1日最大量 | |
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イミグラン (スマトリプタン) |
錠50mg | 1錠 | 2時間以上 | 1回2錠可 | 4錠 |
注3mg キット皮下注3mg |
1本 | 1時間以上 | ― | 2本 | |
点鼻液20mg | 1本 | 2時間以上 | ― | 2本 | |
ゾーミッグ (ゾルミトリプタン) |
錠2.5mg RM錠2.5mg |
1錠 | 2時間以上 | 1回2錠可 | 4錠 |
レルパックス (エレトリプタン) |
錠20mg | 1錠 | 2時間以上 | 1回2錠可 | 2錠 |
マクサルト | 錠10mg RPD錠10mg |
1錠 | 2時間以上 | ― | 2錠 |
アマージ (ナラトリプタン) |
錠2.5mg | 1錠 | 4時間以上 | ― | 2錠 |
実際に1日4回使用した事例を以下に示す。
事例:40歳代の女性。イミグラン錠が処方されていた。「片頭痛が酷く1日200mgまで服用できるから、1日4回6時間間隔で服用したい」との問い合わせが薬局にあった。薬剤師がメーカーに問い合わせたところ、「1日4回6時間間隔の服用は大丈夫です」との回答だったため、患者にその旨を伝えて投薬した。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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