スタチンの一般名を病院外来事務職員が誤認
プラバスタチン錠5mg<先発品:メバロチン>を服用していた患者に、フルバスタチン<先発品:ローコール>が処方された。薬剤師は処方内容を疑問に思い、病院に疑義照会したが、病院の事務職員がプラバスタチンとフルバスタチンを誤認し、誤った回答をした。
<処方1>70歳代の女性。病院の内科、手書き処方(一部を掲載)
<処方2>前回の処方
プラバスタチンNa錠 5mg | 0.5錠 1日1回 朝食後 28日分 |
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<効能効果>
●プラバスタチンNa錠5mg・10mg<プラバスタチンナトリウム>
高脂血症
家族性高コレステロール血症
患者は、以前までクレストール錠2.5mg<ロスバスタチンカルシウム>(処方1の手書き修正前の状態)を服用していたが、前回、プラバスタチンNa錠5mgに変更された(処方2)。今回さらに、クレストールの処方が手書きでフルバスタチンに変更されていた(処方1)。
しかし、フルバスタチンの規格単位(10mg、20mg、30mg)にない規格単位(2.5mg)が記載されていたため疑義照会を行ったが、病院の事務職員からは「フルバスタチン5mgを1日1回が正しい」との回答を得た。
5mgもフルバスタチンの規格単位にはないため、「前回はメバロチンのジェネリックであるプラバスタチンだったが、今回は別の薬ローコールのジェネリックのフルバスタチンに変更でよいか?フルバスタチンには5mg錠は存在しないので、10mg錠を半分に割っての交付でよいか?」と薬剤師が念のため尋ねたところ、事務職員は「それでよい」と回答した。
しかし、薬剤師がフルバスタチンを患者に投薬している最中に、病院の事務職員より電話があり、先ほどのフルバスタチンは間違いであり、前回と同じ「プラバスタチンNa錠5mg 0.5錠 1日1回」が正しいと告げられた。
病院の事務職員が「プラバスタチン」と「フルバスタチン」の薬名類似で混乱してしまった。読み上げた場合も似ているので、一方を聞いてもう一方と思い込んだ可能性がある。そもそも、プラバスタチンとフルバスタチンが存在していることを認識していなかった可能性もある。
医師が、なぜプラバスタチンのところをフルバスタチンと記載したのかは不明だが、事務職員同様の思い違いにより、誤った訂正をしてしまった可能性がある。
一般名処方の場合、同系薬剤の一般名類似が多くあることから、薬局のみならず処方箋を発行する病院(医師、看護師、事務職員などの関与者)でも混乱する可能性があることを認識する。
薬歴チェックを十分に行い、不自然な処方があれば、必ず疑義照会を行う。
1.フルバスタチンとプラバスタチンの薬名類似度
薬名の類似度を数値的に表す指標として、東京大学大学院薬学系研究科・育薬学講座などでは「m2-vwhtfrag」を開発している。この指標によると、「フルバスタチン」と「プラバスタチン」の類似度(m2-vwhtfrag)は1.05と計算される。この値が0.456よりも大きいと、薬名類似により医薬品の取り違えが生じる可能性が高いと予測される。
2.一般名の類似
一般名が類似していることにより、取り違えが発生した他の組み合わせの一例を、類似度(m2-vwhtfrag)と合わせて示す。
一般名1 | 一般名2 | 類似度(m2-vwhtfrag) |
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ラニチジン | ラフチジン | 1.07 |
ニソルジピン | ニルバジピン | 1.00 |
アロチノロール | アテノロール | 0.95 |
エスタゾラム | エチゾラム | 0.94 |
ニセルゴリン | ニコランジル | 0.73 |
参考:独立行船法人 医薬品医療機器総合機構「一般名類似による薬剤取り違えについて」
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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