クラリスとクラリチンの誤処方!一般名処方時の注意点
医師はクラリス錠200mg<クラリスロマイシン>を処方しようとして、処方オーダリングの画面でクラリチン錠10mg<ロラタジン>を誤って選択した。一般名のロラタジンに違和感を抱かず、そのまま一般名処方でロラタジン錠10mgを処方してしまった。
<処方>20歳代の男性。病院の内科。処方オーダリング。
【般】ロラタジン錠 10mg | 2錠 1日2回 朝夕食後 14日分 他 ツムラ青竜湯、オノンカプセル |
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*患者は鼻炎である。
<効能効果>
●クラリス錠200<クラリスロマイシン>
1.一般感染症
〈適応菌種〉
本剤に感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス、インフルエンザ菌、レジオネラ属、カンピロバクター属、ペプトストレプトコッカス属、クラミジア属、マイコプラズマ属
〈適応症〉
●表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎、慢性膿皮症
●外傷・熱傷及び手術創等の二次感染
●肛門周囲膿瘍
●咽頭・喉頭炎、扁桃炎、急性気管支炎、肺炎、肺膿瘍、慢性呼吸器病変の二次感染
●尿道炎
●子宮頸管炎
●感染性腸炎
●中耳炎、副鼻腔炎
●歯周組織炎、歯冠周囲炎、顎炎
2.非結核性抗酸菌症
〈適応菌種〉
本剤に感性のマイコバクテリウム属
〈適応症〉
マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)症を含む非結核性抗酸菌症
3.ヘリコバクター・ピロリ感染症
〈適応菌種〉
本剤に感性のヘリコバクター・ピロリ
〈適応症〉
胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃におけるヘリコバクター・ピロリ感染症、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎
●クラリチン錠10mg・レディタブ錠10mg・ドライシロップ1%<ロラタジン>
アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患(湿疹・皮膚炎、皮膚そう痒症)に伴うそう痒
ロラタジンの通常の用法用量は「1錠、1日1回」であるが、今回は「2錠、1日2回」となっていることから、薬剤師は処方間違いの可能性を疑った。疑義照会を行ったところ、医師はロラタジンではなく、クラリスを処方するつもりであったことが判明した。
医師はクラリスを処方しようとして、処方オーダリングの画面で商品名のよく似た「クラリチン」を選択し、それが一般名処方に変換されてロラタジンが処方されてしまったと思われる。
医師は、クラリチンの一般名であるロラタジンを見ても特に何も問題意識をもつことはなかった。したがって、医師はクラリスの一般名がクラリスロマイシンであることを知らなかった可能性がある。
患者の症状が鼻炎であることから、ロラタジンが処方されていても辻褄があってしまう。薬剤師が今回のように疑義照会しても、適正にクラリスを処方したと思いこんだ医師が「それでよい」と返答した場合、用法用量の適応外使用として処理されれば、そのまま薬剤が交付される危険性がある。
薬剤師は、医師に対して、先発名:先発名、先発名:一般名、一般名:一般名での薬名が類似している一覧表を提供することが望ましい。特に、当該医師がよく処方する薬剤を中心にまとめると良いであろう。
「クラリス」と「クラリチン」の類似度
薬名の類似度を数値的に表す指標として、東京大学大学院薬学系研究科・育薬学講座などでは「m2-vwhtfrag」を開発している。この指標によると、「クラリス」と「クラリチン」の類似度(m2-vwhtfrag)は1.6056と計算される。この値が0.456よりも大きいと、薬名類似により医薬品の取り違えが生じる可能性が高いと予測される。
表1.「クラリス」と類似した薬名の内服薬の一覧
類似度 | 薬品名 | 薬効分類 |
---|---|---|
1.6056 | クラリチン | アレルギー用薬 |
1.4150 | クラリシッド | 抗生物質 |
1.2188 | グラケー | ビタミンK薬 |
1.2188 | グラジナ | 抗ウイルス薬 |
1.0480 | グラマリール | 中枢神経系用薬 |
0.9773 | クラバモックス | 抗生物質 |
0.9150 | クランポール | 抗てんかん薬 |
0.9150 | グラクティブ | 糖尿病用薬 |
0.9150 | グラセプター | 代謝性医薬品 |
0.8313 | グルベス | 糖尿病用薬 |
表2.「クラリチン」と類似した薬名の内服薬の一覧
類似度 | 薬品名 | 薬効分類 |
---|---|---|
1.6056 | クラリス | 抗生物質 |
1.3136 | クラリシッド | 抗生物質 |
1.0500 | グラケー | ビタミンK薬 |
1.0500 | グラジナ | 抗ウイルス薬 |
0.9800 | クランポール | 抗てんかん薬 |
0.9800 | グラマリール | 中枢神経系用薬 |
0.9380 | グリチロン | 肝臓疾患用薬 |
0.9310 | グリコラン | 糖尿病用薬 |
0.9208 | グランダキシン | 催眠鎮静・抗不安薬 |
0.8591 | グラクティブ | 糖尿病用薬 |
0.8591 | グラセプター | 代謝性医薬品 |
※医薬品の効能・効果、用法・用量、使用上の注意等の詳細につきましては、各製品の最新の添付文書をご参照ください。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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