製剤・包装類似で飲み間違いか?独居高齢患者の服薬コンプライアンス不良
薬剤を交付した20日後、「渡された薬の数が間違っていたのではないか」と患者から電話で問い合わせがあった。56日分の処方のはずが、既になくなってしまった薬剤もあれば、たくさん余っている薬剤もあるとのことであった。
<処方1>80歳代の女性。病院の内科。処方オーダリング。
モービック錠 5mg | 3錠 1日3回 毎食後 56日分 |
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プロマックD錠 75mg | 2錠 1日2回 朝夕食後 56日分 |
パリエット錠 10mg | 1錠 1日1回 朝食後 56日分 |
<効能効果>
●モービック錠5mg・10mg<メロキシカム>
下記疾患並びに症状の消炎・鎮痛
関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群
●パリエット錠5mg・10mg・20mg<ラベプラゾールナトリウム>
胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群
(以下は5mg・10mg錠のみ)
非びらん性胃食道逆流症、低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制
下記におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助
胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎
患者に詳しく聞くと、モービック錠は約140錠、プロマックD錠<ポラプレジンク>は約70錠の残りがあるが、パリエット錠は飲み切ってしまったとのことだった。
薬剤師は、薬局の実在庫と理論在庫の数が合致していることから、間違いなく交付している可能性が高いと考えた。パリエット錠が無く、モービック錠の残数が多かったことから、患者がパリエット錠とモービック錠を飲み間違えた可能性も否定できなかった。即ち、パリエット錠を1日3回、モービック錠を1日1回服用していた可能性がある。
患者には電話にて交付間違いの可能性はないことを伝え、再受診を促したが、患者は「飲み間違えていない!」と納得せず、最終的に「もう結構!」と電話を一方的に切ってしまった。
後日、患者は再来局したが、前回と同じ処方内容であった。薬剤師は、間違いなく服用できるように一包化を医師に提案し、患者からも了承を得た。
高齢患者(独居)であったが、一包化ではなくPTPシートのままで薬を交付し、患者が自己管理していた。モービック錠5mgおよびパリエット錠10mgは、どちらもPTPシートが緑色、錠剤が淡黄色で類似していたため、患者が薬を飲み間違えた可能性が考えられた。
患者の疾患の状態や薬識などにもとづき、服薬コンプライアンスが良好に保てるかどうか常に気を配る必要がある。必要に応じて、PTPシートを見分けやすくする、薬袋を分ける、あるいは一包化するなど、患者の服用間違いを回避する工夫を積極的に行うようにする。
更に、薬剤交付時に薬局のカウンターで、実際に薬剤を並べて患者とともに確認し、製剤・包装が類似していると患者が感じる場合には、上記対応策を実施するとともに、患者・家族への懇切丁寧な説明を行う。
製剤・包装類似が原因となった他のトラブル事例を以下に示す。
<処方2>70歳代の男性。病院の内科。処方オーダリング。
エディロールカプセル 0.75μg | 1C 1日1回 朝食後 14日分 |
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ノイロトロピン錠 4単位 | 4錠 1日2回 朝夕食後 14日分 |
レバミピド錠 100mg「EMEC」 | 2錠 1日2回 朝夕食後 14日分 |
酸化マグネシウム錠 330mg「ケンエー」 | 3錠 1日3回 毎食後 14日分 |
トリアゾラム錠 0.125mg「EMEC」 | 1錠 1日1回 就寝前 14日分 |
センノシド錠 12mg「サワイ」 | 2錠 1日1回 就寝前 14日分 |
モーラスパップ 30mg | 28枚 1日2回 腰・膝・右足に貼付 |
*患者はジェネリック医薬品を希望している。
患者から、『酸化マグネシウム錠330mg「ケンエー」とトリアゾラム錠0.125mg「EMEC」は、包装と錠剤の色・形状が似ているため、何度か間違えて服用してしまった。』と訴えがあった。
酸化マグネシウム錠330mg「ケンエー」と、トリアゾラム錠0.125mg「EMEC」のそれぞれのPTPシート包装のデザイン(銀色の台紙に青系色の印字)と、錠剤の色と形状(白色の円形)が似ている(図2)。
主治医へ疑義照会し、トリアゾラム錠0.125mg「EMEC」から、包装と錠剤の色・形状が異なる先発医薬品のハルシオン錠0.125mgへ変更となった。
※医薬品の効能・効果、用法・用量、使用上の注意等の詳細につきましては、各製品の最新の添付文書をご参照ください。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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