Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例81

ホクナリンテープを1日に3回貼り替え!貼付部位を強調しすぎた患者指導

ヒヤリした!ハットした!

患者は、ホクナリンテープ<ツロブテロール>の貼付部位を1日の中で「胸部、背部、上腕部」と点々と変えていた。すなわち、剥がしては新しいテープを貼ることを1日に3回繰り返していた。過量使用であるが、幸いにも有害事象は起こっていない。

<処方>60歳代後半の男性。病院の内科。オーダリング/印字出力。

ホクナリンテープ 2mg 1日1回 1枚朝貼付 14日分
他、数剤

<効能効果>

●ホクナリンテープ0.5mg・1mg・2mg<ツロブテロール>
下記疾患の気道閉塞性障害に基づく呼吸困難など諸症状の緩解
気管支喘息、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫

どうした?どうなった?

患者にホクナリンテープが処方されたが、当薬局でこの患者に調剤するのは初めてであった。薬剤師が、これまでホクナリンテープを使用した経験があるかどうかを尋ねたところ、患者は、使用したことがあると答えた(他の薬局で調剤された)。

さらに、どのように使用していたか確認したところ、毎日1日の中で「胸部、背部、上腕部」と貼る場所を変えていることが判明した。貼り替えている時間は正確には不明であるが、朝に1枚貼って、昼にそれを剥がして新しいテープを1枚貼って、夕にそれを剥がして新しいテープを1枚貼っていたようである。すなわち、1日に3枚使用しており、明らかに過量使用となっていた。しかし、幸いなことに有害事象は起こっていなかった。

なぜ?

本剤の用法用量は、医療用添付文書によると「通常、成人にはツロブテロールとして2mg、小児にはツロブテロールとして0.5~3歳未満には0.5mg、3~9歳未満には1mg、9歳以上には2mgを1日1回、“胸部、背部又は上腕部”のいずれかに貼付する」である。他の薬局の薬剤師が“胸部、背部又は上腕部”を強調したため、患者は1日で全ての部位に貼るものと思い込んだ。

さらに、ホクナリンテープの患者指導箋を見て、患者の思い込みに拍車がかかった可能性がある(「もう一言」参照)。
他の薬局の薬剤師は、1日の中で貼る場所を点々と変える患者が存在するとは予測していなかったため、事前に注意喚起していなかった。

ホットした!

貼付剤については、不適正使用事例について学習し、患者が引き起こす様々なトラブルをあらかじめ予測できるように備えたい。
今回のホクナリンテープでは、痒みなどがなければ胸部、背部又は上腕部のどこか1箇所に1日中貼付し、1日に何回も張り替えることのないように事前説明することも必要であろう。

もう一言

ホクナリンテープの医薬品インタビューフォーム(2017年3月・第15版)p.38に、患者指導箋が掲載されている。貼る時の注意の項に、貼る場所についての記載がある。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2018年12月12日

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