一部手書きの処方箋により用法を誤認識
<処方1>を確認した薬剤師は、カルデナリン錠<ドキサゾシンメシル酸塩>の用法を、朝4mg、夕2mgだと思い込んだが、医師の処方意図は朝・夕食後に3mgずつであった。
<処方1>60歳の男性。病院の神経内科。オーダリング/一部手書き
*添付文書上の用法は1日1回経口投与である。
<効能効果・用法用量>
●カルデナリン錠0.5mg・1mg・2mg・4mg
高血圧症
褐色細胞腫による高血圧症
通常、成人にはドキサゾシンとして1日1回0.5mgより投与を始め、効果が不十分な場合は1~2週間の間隔をおいて1~4mgに漸増し、1日1回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日最高投与量は8mgまでとする。ただし、褐色細胞腫による高血圧症に対しては1日最高投与量を16mgまでとする。
前回の処方は、「カルデナリン錠6mg/日、1日2回朝夕食後」であった<処方2>。
<処方2>
カルデナリン錠2mg | 2錠 1日2回 朝夕食後 |
---|---|
カルデナリン錠1mg | 2錠 1日2回 朝夕食後 |
今回の処方は、<処方1>の通り「朝食後」に二重線が引かれて訂正印が押され、カルデナリン錠2mgの右に手書きで「朝」、カルデナリン錠1mgの右に「夕」と記載されていた。
処方箋の入力を担当した医療事務と調剤した薬剤師は、今回は用法が変更になり朝4mg、夕2mgだと思い込んでそのまま入力、調剤した。しかし、鑑査した薬剤師が、用法の手書き記載に違和感を覚え、確認のため疑義照会したところ、前回と同じ「カルデナリン錠6mg/日1日2回朝夕食後」が医師の正しい処方意図であった。
今回、一部が手書きで修正になった理由は不明である。医師は処方オーダリングシステムで朝食後と誤って入力し、そのまま印字出力したと思われる。その後、用法が間違っていたことに気づき訂正した時に、規格単位を考えず「朝夕」と間違って手書きで記載したとのことであった。両規格単位をまとめて半分ずつ、朝夕に服用するというイメージで訂正した。
調剤した薬剤師は、一瞬違和感を覚えながらも、患者は早朝高血圧のため、医師がカルデナリン錠の用法を朝重視の不均等に変えたのだろうと勝手に思い込んでしまった。
処方箋の記載内容が少しでも不明瞭であったり、不審に感じたりした場合には、思い込みによる調剤をせず、必ず疑義照会して確認してから調剤を開始することが大切である。
手書き処方箋に関するヒヤリ・ハット・ホット事例を示す。
【事例1】
60歳代の女性患者。
「クラリス400mg分2 5.T.D」との手書き処方箋で、400mgを1日量ではなく規格単位だと勘違いしてしまい、店舗には200mg錠しかないので、「クラリス錠200mg4錠分2」で調剤しようとした。そもそも、クラリス錠400mgというものが存在しないことを知らなかった。
【事例2】
10歳未満の男性患者。
「ストラテラ内用液1回4.8mL1日2回30日分」との手書き処方箋で、288mLのところ半量の144mLを調剤してしまった。1回量を1日量であるとの先入観で調剤してしまった。手書きだったため、“回”と“日”の見間違いもあったと思われる。
【事例3】
90歳代の女性患者。
手書き処方箋で、「1回1.8」と記載あり。他の薬は「1回1T」と記載されていたので、「8」は単位の「g」であると思った。念のため医師に確認したところ、「1.8g」の処方意図であることが判明した。単位を記載したり、しなかったりと統一されていなかった。手書きで読みづらいこともあり「8」が「g」に似て見えた。
【事例4】
1~5歳の男性患者。
「アレジオンDS1%0.9mg分1」との手書き処方箋。患者の体重は18kgであり、通常は0.25~0.5mg/kgであるため疑義照会したところ、「9mg」へ変更になった。病院のプリンターが壊れていて、この日は全て手書きだったため、gとmgを書き間違えたのだと思われる。
【事例5】
20歳代の男性患者。
「アルメタ軟膏両手手洗い後に塗布」との手書き処方箋。手の赤みが強く、掻きむしった痕もあり、ステロイドのランク不足と判断し疑義照会した結果、「フルメタ軟膏」であったことが判明。医師はフルメタと書いたが、フのなかにノが入ってしまったため、アルメタに見えてしまった。
※医薬品の効能・効果、用法・用量、使用上の注意等の詳細につきましては、各製品の最新の添付文書をご参照ください。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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