Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例73

処方が不適正なのに患者は適正に服薬!不十分だった疑義照会

ヒヤリした!ハットした!

ホリナート・テガフール・ウラシル療法におけるユーゼル錠25mg<ホリナートカルシウム>とユーエフティ配合カプセルT100<テガフール・ウラシル>の不適正処方をそのまま患者に交付してしまった。

<処方1>60歳代の男性。病院の消化器外科。オーダリング/印字処方。

ユーゼル錠25mg 3錠 1日3回毎食後 28日分
ユーエフティ配合カプセルT100 3Cap 1日3回毎食後 28日分

<処方2>2回目の疑義照会による変更後

ユーゼル錠25mg 3錠 1日3回
食事の前後1時間をさけて服用 28日分
ユーエフティ配合カプセルT100 3Cap 1日3回毎食後 28日分

<効能効果>

●ユーゼル錠25mg<ホリナートカルシウム>
ホリナート・テガフール・ウラシル療法
結腸・直腸癌に対するテガフール・ウラシルの抗腫瘍効果の増強

どうした?どうなった?

患者は直腸癌であり、<処方1>の薬剤が処方された。調剤、鑑査(及び投薬)を行った薬剤師Aは、通常は食事の前後1時間を避けて服用すべきユーゼル錠が毎食後服用で処方されているのに気づき、医師に疑義照会した。すると、医師は忙しそうな様子で、「それで(処方のまま)良い」との回答だった。そこで、薬剤師薬剤師Aは特段の理由があると判断し、処方通りに投薬してしまった。
数日後、薬剤師Bが調剤録をチェックしていたところ、ユーゼル錠が食後服用のまま投薬されていることが気になった。そこで、医師に再度疑義照会したところ、<処方2>のように変更となった。

薬剤師Bは、患者に電話をかけてお詫びし、正しい服用方法を伝えた。すると、患者が家に帰って薬を服用しようとユーゼル錠のPTPシート(裏面)を見たところ、「食事の前後1時間をさけて服用する」と記載してあったため、実際には患者はユーゼル錠を食前1時間に服用し、ユーエフティ配合カプセルT100を食後に服用していた。

なぜ?

薬剤師Aは、疑義照会したものの、「処方が毎食後となっていますが、よろしいですか?」という聞き方をしたため、医師も処方の間違いに気づかなかった(服用方法について知識を持っていないと思われる)と考えられる。また、薬剤師Aは、医師の返答を受けて、特段の理由があって食後服用となっていると思いこんでしまった。
即ち、ホリナート・テガフール・ウラシル療法における薬剤の服用方法に関して、医師は知識がなく、薬剤師は薬学的知識と医師への説明が不十分であったことが原因である。

ホットした!

院外薬局でも経口癌化学療法剤を調剤・交付することが非常に多くなってきているため、それらの適正な用法・用量をチェックできるように、個々の薬剤師の能力をアップするだけでなく、薬局全体としてより確実なチェック機能を持つべきである。

もう一言

○ホリナート・テガフール・ウラシル療法における用法・用量
通常、成人にはホリナートとして75mgを、1日3回に分けて(約8時間ごとに)、テガフール・ウラシル配合剤と同時に経口投与する。テガフール・ウラシル配合剤は、通常、1日量として、テガフール300~600mg相当量(300mg/m2を基準)を1日3回に分けて(約8時間ごとに)、食事の前後1時間を避けて経口投与する。以上を28日間連日経口投与し、その後7日間休薬する。これを1クールとして投与を繰り返す。
患者の食事の時間を「午前8時、正午、午後7時」と仮定した場合、上記の用法用量に適合する処方(一例)は以下となる。

<処方3>

ユーゼル錠25mg 3錠 1日3回 6時、14時、22時に服用
ユーエフティ配合カプセルT100 3Cap 1日3回 6時、14時、22時に服用

○ホリナート・テガフール・ウラシル療法における食事の影響
癌患者において空腹時及び食後(高脂肪食摂取後)にホリナート30mg及びテガフール・ウラシル配合剤(テガフール200mg相当量)を投与した場合、空腹時に比べて食後投与時のウラシルのAUC、テガフールから変換されたフルオロウラシルのAUCはそれぞれ66%、37%減少し、ホリナートのAUCは61%上昇した。一方、テガフールのAUCに著明な変化は認められなかった。

DamleBetal.,ClinCancerRes.7(3):517-523(2001)

※医薬品の効能・効果、用法・用量、使用上の注意等の詳細につきましては、各製品の最新の添付文書をご参照ください。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2018年8月10日

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