服用時点の押印ミスで朝夕の薬を逆に投薬
一包化した分包紙に患者氏名を印字したラベルを貼付し、服用時点を押印しているが、誤って朝食後と夕食後の押印を逆にして投薬してしまった。
<処方>80歳代の女性(グループホームに入居中)。内科・外科クリニック。処方オーダリング。
アリセプトD錠5mg | 1錠 1日1回 朝食後 14日分 |
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ノルバスク OD錠2.5mg | 1錠 1日1回 朝食後 14日分 |
ベンズフォー錠10mg | 1錠 1日1回 朝食後 14日分 |
ドグマチール錠50mg | 2錠 1日2回 朝夕食後 14日分 |
ランソプラゾールOD錠30mg | 1錠 1日1回 夕食後 14日分 |
パキシル錠10mg | 1錠 1日1回 夕食後 14日分 |
酸化マグネシウム | 1g 1日1回 夕食後 14日分 |
デパス錠 1mg | 1錠 1日1回 寝る前 14日分 |
*入居施設の希望により、一包化(但し、酸化マグネシウムは別包)。
当薬局は1人薬剤師の薬局であり、3ヵ所の介護施設の処方箋を応需していた。その日は2ヵ所分の薬(計27名分、どれも複雑な処方であった)を夕方までに各施設に届けることになっていた。処方変更がなく残薬がある場合は、配達が翌日になっても良い場合が多い。しかし、当時は冬場であり、急性期の薬が追加されていることも多いため、その日のうちに届けなければいけないという意識(焦り)があった。
一包化の際、分包紙に患者氏名を印字したラベルを貼付し、服用時点を押印している。また、調剤後の薬は、処方箋に記載された順番に関係なく、朝・昼・夕・寝る前の順に並べておくように決めていた。その日は、事務職員が鑑査台に調剤後の薬を取りそろえて並べる作業をしていた。その後、薬剤師が押印しながら自己鑑査を行っていたが、誤って朝食後と夕食後の押印を逆にして、そのまま施設に届けてしまった。
介護施設の看護師が、配薬時にいつもの薬と違うことに気づき薬局に連絡があった。薬剤師が介護施設に出向き確認したところ、押印ミスが発覚した。実際にそのまま服用してしまった場合、午前中に傾眠状態が現れたり、血圧のコントロールが不良になったりするなどの有害事象が発現するおそれがあった。
正しい一包化薬 | 誤った押印をした一包化薬 | |
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朝 | アリセプト D錠 5mg ノルバスク OD錠 2.5mg ベンズフォー錠 10mg ドグマチール錠 50mg |
ランソプラゾール OD錠 30mg パキシル錠 10mg ドグマチール錠 50mg |
夕 | ランソプラゾール OD錠 30mg パキシル錠 10mg ドグマチール錠 50mg |
アリセプト D 錠 5mg ノルバスク OD 錠 2.5mg ベンズフォー錠 10mg ドグマチール錠 50mg |
調剤後の薬剤を取りそろえた事務職員が、朝食後と夕食後の薬の順を逆に並べた可能性がある。さらに、薬剤師は、朝・夕どちらの薬であるかの確認をしないまま、押印してしまった。介護施設に夕方までに薬剤を届けなければならないという時間的制約による焦りから、基本的な調剤・鑑査の作業がおろそかになっていた。
施設への薬剤の配達は翌日になっても良い場合があるが、そのことについて介護施設の方に相談して対処すれば、余裕をもって調剤業務が実施でき、チェックがおろそかになることを回避できたかもしれない。
当該薬局の近くにはグループホームなどの介護施設が増えており、薬局としても手作業で一包化薬に患者名を記載することに限界を感じていた。そのため、印字できる自動分包機の導入を検討していたが、費用のこともありそのままになっていた。
時間的余裕がない場合は、まずは慢性疾患の薬も急性疾患の薬と同日数だけ調剤し、残りを後から届けることにした。その分、鑑査に時間をかけて徹底にチェックできるようにした。
また、以前から検討していた自動分包機も導入することにした。
一包化の分包の服薬時期を取り違えたほかの事例を以下に示す。
事例:
80歳代の女性患者。
当該薬局で一包化調剤をする際、朝と夕の薬を取り違えて分包し、投薬してしまった(原因は不明である)。患者の家族が気づき、誤調剤が発覚した。患者は、2日分だけ朝夕に逆の薬を服用してしまった。患者の体調に変化はなかったが、医師に報告し、患者および家族には謝罪した。
調剤した薬剤師と鑑査した薬剤師は別人であったが、調剤と鑑査の2段階のプロセスの両方で気づかないミスであった。声出し確認、処方箋の再確認を怠ったために起こった調剤過誤であると考えられる。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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