Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例61

メソトレキセート錠 2.5mgをメトトレキサート錠 2mg「タナベ」に誤調剤

ヒヤリした!ハットした!

処方箋には「メソトレキセート錠 2.5mg」と記載されていたのに、「メトトレキサート錠 2mg「タナベ」」を調剤し、患者に交付してしまった。

<処方>40歳代の女性。病院のリウマチセンター。処方オーダリング。

ボルタレンSRカプセル 37.5mg 2Cap 1日2回 朝・夕食後 28日分
アザルフィジンEN錠 500mg 2錠 1日2回 朝・夕食後 28日分
メソトレキセート錠 2.5mg 2錠 土曜日・日曜日の8:00・20:00 8日分(4週間分)
他数種類

*メソトレキセート錠 2.5mgは適応外処方である。

<効能効果>

メソトレキセート錠 2.5mg:
下記疾患の自覚的並びに他覚的症状の緩解
急性白血病
慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病
絨毛性疾患(絨毛癌、破壊胞状奇胎、胞状奇胎)

メトトレキサート錠「タナベ」:
関節リウマチ、関節症状を伴う若年性特発性関節炎

どうした?どうなった?

患者は関節リウマチを患っており、以前から「メソトレキセート錠 2.5mg」を服用していた。この薬局では、当該患者の「メソトレキセート錠 2.5mg」の処方に対して、「メトトレキサート錠 2mg「タナベ」」が誤って集薬されたことが過去に数回あった。そのため、薬歴の確認事項に「★★メソトレキセート錠はバラ錠の方、メトトレキサート錠「タナベ」と間違わないこと」と目立つように記載して、注意喚起していた。しかし、薬剤を入れているカセットには、特に注意喚起の札は付けていなかった(当該薬局でメソトレキセート錠 2.5mgが処方されているのは当該患者1名のみである)。

今回、計数調剤を担当した薬剤師Aが患者にジェネリックを紹介したところ、患者がジェネリックを希望したため、「ボルタレンSRカプセル 37.5mg→ジクロフェナクNa 徐放カプセル 37.5mg」と「アザルフィジンEN錠 500mg→サラゾスルファピリジン腸溶錠 500mg「日医工」」の2種類を変更することになった。
その後、薬剤師Aは、メソトレキセート錠 2.5mgではなく、メトトレキサート錠 2mg「タナベ」を誤って調剤してしまった。薬剤交付までに、計数調剤、鑑査、投薬と3人の薬剤師が関わっていたが、鑑査した薬剤師及び投薬した薬剤師も、計数調剤のミスに気付かずにいた。

患者は、投薬窓口で投薬した薬剤師から「ボルタレンとアザルフィジンがジェネリックに代替調剤された」ことについて説明を受けた。このとき、メソトレキセート錠 2.5mgがいつもと違うことは気付いていたが(メソトレキセート錠 2.5mgはバラ包装のみの販売のため、いつもはバラ錠が1錠ずつ分包されていたが、今回のメトトレキサート錠 2mg「タナベ」は特徴のあるPTPシートで、錠剤の形も前者は円形、後者は楕円形と異なる)、医薬品名が酷似していたため、これもジェネリックに代替変更されたものだと思い、特に薬剤師に確認することはしなかった。

その後患者は、メトトレキサート錠 2mg「タナベ」を服用しようとしたとき、交付された薬袋に印刷された錠剤の画像がこれまで通りの「メソトレキセート錠 2.5mg」のままであることに気付いた(当該薬局では薬剤の画像入りの薬袋を使用している)。更に、2.5mgが2mgになっていることも気になり、薬局に確認の電話をかけ、誤調剤が発覚した。

なぜ?

① メソトレキセート錠2.5mgとメトトレキサート錠 2mg「タナベ」は医薬品名がとても類似しているため、計数調剤した薬剤師Aは調剤したときに間違いに気付かなかった。

② 処方医は以前より、メソトレキセート錠 2.5mg(抗癌薬)を関節リウマチに使用していた(適応外使用であるが、その理由は不明)。メトトレキサート錠 2mgはリウマトレックスカプセル 2mg(抗リウマチ薬)の剤形違いのジェネリック医薬品であり、薬剤師は、関節リウマチ患者への処方であったために、メトトレキサート錠 2mgと思い込んでしまった。

③ 鑑査した薬剤師や投薬した薬剤師は、他2錠のジェネリックへの代替変更に気を取られてしまい、計数調剤のミスに気付きにくかった。

④ 患者も、錠剤の外観からいつもと違う薬であることは認識していたが、ちょうどジェネリックに代替調剤したところだったので、これもジェネリックに切り替わったのだろうと思い込んでしまい、薬局カウンターでは薬剤師に確認しなかった。

これまで薬局内で同じヒヤリハットが数回あったが、絶対に間違えないようにするための徹底的な対策を行っていなかった。その意味では、上記のような要因はあるが、今回の事例は起こるべくして起きたと考えられる。

ホットした!

① 鑑査台及び「メトトレキサート錠 2mg「タナベ」」の薬剤カセットケースに、大きく目立つように「誤調剤あり!メソトレキセート錠 2.5mg 誤調剤」の注意喚起の札をつけた。

② メソトレキセート錠 2.5mgの薬情及び薬袋の表記を『「2.5mg」メソトレキセート錠』に変更し、規格が目立つようにして、調剤や鑑査時により認識しやすいようにした。

名前が似ている薬剤(特に同一成分品、ジェネリック医薬品など)が存在する場合には、計数調剤した薬剤と処方箋を照らし合わせて、しっかりと医薬品名及び規格を確認するとよい。
また、小さなことでも同じヒヤリハットが複数回起きた場合には、絶対に同じ間違いを起こさないように、早急に薬局内のスタッフ全員で相談して対策をとる。

もう一言

関節リウマチには、通常、リウマトレックスカプセル 2mg、或いはそのジェネリック医薬品が使用されている。下記にリウマトレックスカプセル 2mgが開発された経緯をインタビューフォームから引用する。

「ワイス株式会社(現ファイザー株式会社)では、日本における本剤の関節リウマチに対する用法・用量が確立されていないことから、安全性に重点を置き、用量検討試験を開始し、関節リウマチに対する本剤の低用量間欠投与法の用法・用量を推定した。その後、第III相試験として、比較試験及び長期投与試験を開始した。第III相試験の終了を待たず、用量検討試験の成績及び間質性肺炎実態調査の結果、並びに海外で実施された臨床試験及び国内外の研究報告などを慎重に比較・分析し、本療法は諸外国と同様に日本においても関節リウマチに対して確立された療法と判断し承認申請を行った。そして、1999年(平成11年)3月12日承認された。」

リウマトレックスカプセル 2mgの医薬品インタビューフォーム
(2017年11月改訂、第20版)、ファイザー株式会社より

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2018年2月7日

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