患者が激怒!了承を得ずに行った疑義照会
おくすり手帳の内容から2ヵ所の医療機関でロペミンカプセル<ロペラミド塩酸塩>が定期処方されていること把握し、患者に状況を確認しないまま疑義照会した。結果、以前から継続処方されていた内科でロペミンが中止された。そのことを患者に伝えると、「もう二度とこの薬局には来ないし、おくすり手帳は持たない!」と激怒してしまった。
<処方1>50歳代の男性。Aクリニックの内科。処方オーダリング。
ロペミンカプセル 1mg | 2Cap 1日2回 朝夕食後 35日分 |
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イリボー錠 5μg | 2錠 1日1回 朝食後 35日分 |
ラックビー微粒 N | 3g 1日3回 毎食後 35日分 |
タンニン酸アルブミン | 3g 1日3回 毎食後 35日分 |
他3種類 |
<処方2>B病院(精神科専門病院)(おくすり手帳で確認)
ロペミンカプセル 1mg | 2Cap 1日2回 朝夕食後 28日分 |
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リスパダール錠 2mg | 2錠 1日2回 朝夕食後 28日分 |
他3種類 |
<効能効果>
●ロペミンカプセル 1mg・細粒 0.1%<ロペラミド塩酸塩>
下痢症
患者は、過敏性腸症候群のためAクリニックを受診し、<処方1>を数年にわたって継続服用していた。また、統合失調症のためB病院を受診し、リスパダール(一般名:リスペリドン)などを継続服用していた。
今回、患者はAクリニックを受診後に来局した。おくすり手帳を確認すると、Aクリニックで処方されている「ロぺミン」が、B病院でも処方されていた(処方2)。なお、Aクリニックの処方箋は当薬局でずっと調剤していたが、B病院の処方箋は別のC薬局で調剤されていた。
患者に詳細を確認しようとしたが、患者は薬局内におらず、「あとで再度来局」というメモが薬袋に貼ってあった。
薬剤師は、ロペラミドの用量は通常1日1~2mgで、症状により適宜増減できるため、両方の処方を合わせて1日4カプセル(4mg)を服用することは差し支えないと考えたが、一方で、同じ薬を2つの医療機関から定期処方されるのは好ましくないとも考えた。そこで、受け付けた処方箋の発行元のAクリニックの内科医に、他院精神科からもロペミンが2Cap/日で新たに処方されていることを相談したところ、今回の<処方1>からロペミンを削除するようにとの回答を受けた。
ほどなくして患者が来局し、Aクリニックのロペミンが中止された経緯を説明したところ、患者は「起床後、仕事前に下痢がひどくて出勤できない!ひどいときには朝のうちにロペミンを4個も5個も飲む日がある。内科のロペミンを中止されたら困るんだよ!仕事に行けないじゃないか!あなたが私のことを養ってくれるのか!B病院の前の薬局は何も言わずにさっさと出してくれた。こんなことになるのなら、おくすり手帳は二度と持たないし、この薬局にも二度と来ない!」と激怒してしまった。
薬剤師がAクリニックの処方医に患者の状況や訴えの内容を連絡したところ、すぐに再診をしてもらえることになり、患者は再度Aクリニックを受診して、下痢について医師に相談した。その結果、今回はロペミンを処方せず、下痢がひどい時のために頓服でコデインリン酸塩が追加処方された。今後、下痢については、Aクリニック内科で一括して管理することになった。
患者の意向を確認せず、患者の許可を得ないまま、自分の判断のみで疑義照会をしてしまった。すなわち、患者の病状を確認せず、「重複している=良くない」と思い込んでしまった。また、ロペミンの用法用量が適宜増減の範囲内であったため、疑義照会をした時点では、内科から処方されたロペミンが中止されるとは思っていなかった。
患者に対して、なぜ医師に疑義照会しなくてはいけないかをわかりやすく説明し、可能であれば患者の同意を得た上で疑義照会したい。
医師への疑義照会は、可能な限り患者に断ってから行うようにしたい。患者によっては、疑義照会をすると伝えると、「それは止めてくれ」と述べる場合があるが、薬剤師として「なぜ疑義照会が必要なのか?」をしっかり説明した上で、同意を得ることになる。これは、薬剤師の重要な役割、医薬分業の意義などを理解してもらえるチャンスである。
患者の同意を得ないで疑義照会し、患者が怒った類似例を以下に示す。
事例:併用禁忌を疑義照会して処方変更となったが、患者が怒った
60歳代の男性。ハルシオン(トリアゾラム)を服用中の患者に、イトラコナゾールが処方された。併用禁忌のため疑義照会すると、ハルシオンからゾルピデムに変更となった。
投薬時に変更になったことを患者に伝えると、患者は「俺はハルシオンが良い!」と怒っていた。患者の安全面を考えて変更になった旨を伝えると、患者は納得し、今回はゾルピデムで様子を見ることとなった。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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