後発医薬品へ変更したら、かえって負担金が増えた?!
アデホスコーワ腸溶錠からその後発医薬品へ変更したところ、かえって患者負担金が増えてしまった。
<処方1>50歳代の女性。耳鼻科クリニック。印字出力。
アデホスコーワ腸溶錠 60 | 3錠 1日3回 毎食後 14日分 |
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<処方2>50歳代の女性。耳鼻科クリニック。印字出力。
ATP腸溶錠 20mg「日医工」 | 9錠 1日3回 毎食後 14日分 |
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<効能効果>
●アデホスコーワ腸溶錠 20・60、ATP 腸溶錠 20mg「日医工」 <アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物>
○下記疾患に伴う諸症状の改善
頭部外傷後遺症
○心不全
○消化管機能低下のみられる慢性胃炎
○調節性眼精疲労における調節機能の安定化
患者は耳鼻科から<処方1>が継続処方され、服用していた。ある時、医師が後発医薬品に代えてもいいと判断し、アデホスコーワ腸溶錠 60(処方1)からATP腸溶錠 20mg「日医工」(処方2)に変更された。
ところが、薬剤料を計算したところ、変更すると負担金額が高くなってしまうことが分かった。そこで、医師に疑義照会して元の処方に戻し、これまで通りの薬剤を交付した。
先発医薬品には60mg錠と20mg錠があるが、後発医薬品には20mg錠しかなかった。本患者には60mg錠が処方されていたため、先発医薬品と同じ用法用量で継続するためには錠数が多くなり、後発医薬品の方が高くなってしまった。すなわち、先発医薬品は60mg錠で10.5円だが、後発品は20mg錠で5.4円のため60mg相当(3錠)では16.2円と先発医薬品より高くなってしまう。
薬剤師や医師は後発医薬品が必ず安いと思っていたので、このような逆転現象を予測できなかった。
先発医薬品と後発医薬品の薬価があまり変わらない場合、先発医薬品より後発医薬品の方が薬代が高くなる場合がある。トラブル回避のために事前に患者に説明と同意を得る必要がある。更に、今回のように先発医薬品と後発医薬品に同一規格がないと、薬剤料も後発医薬品のほうが高くなってしまうケースがあることを認識する必要がある。
チラーヂン S錠の規格単位の違いで薬代が異なってしまい、患者からクレームがあった事例を示そう。
事例:40歳代の女性。甲状腺機能低下症である。
<処方1>
チラーヂン S錠 50μg | 1.5錠 1日1回 朝食後 30日分 |
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<処方2>
チラーヂン S錠 50μg | 1錠 1日1回 朝食後 30日分 |
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チラーヂン S錠 25μg | 1錠 1日1回 朝食後 30日分 |
いつもチラーヂン S錠 50μgの1.5錠を一包化調剤していた<処方1>。しかし、患者より一包化の袋から薬が取り出しにくいとの申し出があり、50μg錠と25μg錠に処方変更になった<処方2>。チラーヂン Sの規格単位の変更を伝え、用量は今までと同じであることを説明したところ、薬代が前回より90円高くなっていることからクレームがあった。
薬代の患者負担額を計算してみよう(平成 28年の調剤報酬、薬価で計算)。
チラーヂン S錠 50μg、チラーヂン S錠 25μgも同一薬価で「9.6円/錠」である。チラーヂン S錠 50μgは、半量規格の25μg錠があるので50μg錠を半割しても、自家製剤加算はとれない。ここで、薬価の点数計算は1点=10円で、薬代15円以下は1点、15円を超える場合は「5捨5超入」となる。
「チラーヂン Sの75μg」を調剤する方法は、以下の3パターンあり、1日の薬剤料が相違する。
a)チラーヂン S錠 50μgを1.5錠(1日分)
薬価9.6円×1.5錠=14.4円⇒1点
b)チラーヂン S錠 25μgを3錠(1日分)
薬価9.6円×3錠=28.8円⇒3点
c)チラーヂン S錠 50μgを1錠+チラーヂン S錠 25μgを1錠(1日分)
薬価9.6円×1錠+9.6円×1錠=19.2円⇒2点
30日分のすべての調剤料は、以下である(今回は、調剤基本料1、基準調剤加算、後発医薬品調剤体制加算2、6カ月以内に再来局かつ手帳による情報提供ありで計算)。
a)チラーヂン S錠 50μg 1.5錠 1日1回 朝食後 30日分
調剤技術料175点[調剤基本料1:41点+基準調剤加算:32点+後発医薬品調剤体制加算2:22点+内服調剤料:80点]+薬学管理料38点+薬剤料30点[1点×30日分]=243点(2430円)
⇒3割負担だと2430円×0.3=729円→(10円未満を四捨五入)730円
b)チラーヂン S錠 25μg 3錠 1日1回 朝食後 30日分
調剤技術料175点[調剤基本料1:41点+基準調剤加算:32点+後発医薬品調剤体制加算2:22点+内服調剤料:80点]+薬学管理料38点+薬剤料90点[3点×30日分]=303点(3030円)
⇒3割負担だと3030円×0.3=909円→(10円未満を四捨五入)910円
c)チラーヂン S錠 50μg 1錠 1日1回 朝食後 30日分
チラーヂン S錠 25μg 1錠 1日1回 朝食後 30日分
調剤技術料175点[調剤基本料1:41点+基準調剤加算:32点+後発医薬品調剤体制加算2:22点+内服調剤料:80点]+薬学管理料38点+薬剤料60点[2点×30日分]=273点(2730円)
⇒3割負担だと2730円×0.3=819円→(10円未満を四捨五入)820円
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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