Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例52

「コーヒー味」と見て、エンシュア・H「黒糖味」を誤調剤

ヒヤリした!ハットした!

エンシュア・Hの「コーヒー味」が処方されていたにもかかわらず、間違って「黒糖味」の缶を調剤してしまった。

<処方1>80歳代の女性。A病院の内科。処方オーダ/印字出力。

エンシュア・H「コーヒー味」 1缶(250mL) 1日1回 朝食後 3日分

<効能効果>

●エンシュア・H
一般に、手術後患者の栄養保持に用いることができるが、特に長期にわたり、経口的食事摂取が困難で、単位量当たり高カロリー(1.5kcal/mL)の経腸栄養剤を必要とする下記の患者の経管栄養補給に使用する。
1.水分の摂取制限が必要な患者(心不全や腎不全を合併している患者など)
2.安静時エネルギー消費量が亢進している患者(熱傷患者、感染症を合併している患者など)
3.経腸栄養剤の投与容量を減らしたい患者(容量依存性の腹部膨満感を訴える患者など)
4.経腸栄養剤の投与時間の短縮が望ましい患者(口腔外科や耳鼻科の術後患者など)

どうした?どうなった?

処方せんではエンシュア・Hの「コーヒー味」であったが、「黒糖味」が調剤されており、調剤鑑査にて誤調剤が判明した。患者には正しく「コーヒー味」が交付された。

なぜ?

「コーヒー味」は缶の色が「茶色」という先入観から、缶の色だけで判断して調剤してしまった。更に、「バニラ味」、「バナナ味」、「メロン味」、「ストロベリー味」の存在は認識していたが、まさか「黒糖味」があるとは知らなかった。自己鑑査時に、医療用添付文書やパンフレットなどで「味」の確認を怠った。

ホットした!

錠剤やカプセル剤などの調剤の自己鑑査時と同様に、処方せん上の薬品名の横に実際の薬品を並べ、医薬品名と規格(味)を確認する。
薬局に在庫されている各種経腸栄養剤の味および外観(包装)を把握する。
規格については、色ではなく、医薬品に表示されている「味」の記載で確認することを促すように注意喚起シールを掲示する。

もう一言

経腸栄養剤であるエンシュアには、エンシュア・Hとエンシュア・リキッドがある。エンシュア・Hには「バニラ味」、「コーヒー味」、「バナナ味」、「黒糖味」、「メロン味」、「ストロベリー味」があり、エンシュア・リキッドの缶包装には「バニラ味」、「コーヒー味」、「ストロベリー味」のみがある。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2017年8月30日

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