Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例49

既に中止となっていたグルコバイ錠が処方されてしまった

ヒヤリした!ハットした!

基幹病院において6か月前にグルコバイ錠が90日分処方された。その後は、地域の診療所で診察、処方されることになり、糖尿病の検査値が改善したため、グルコバイ錠は中止となった。しかし、基幹病院を定期健診で受診し、6か月前と同様にグルコバイ錠が処方されてしまった。

<処方1>70歳代の女性。A病院の腫瘍・血液・感染症内科。

アスコルビン酸原末 2g 1日1回 朝食後 90日分
パントシン散 20%(1g/包) 1包 1日1回 朝食後 90日分
グルコバイ錠 50mg 3錠 1日3回 毎食直前 90日分
アモバン錠 7.5 1錠 1日1回 寝る前 90日分

<処方2>同病院、6か月前(前回)

アスコルビン酸原末 2g 1日1回 朝食後 90日分
パントシン散 20%(1g/包) 1包 1日1回 朝食後 90日分
グルコバイ錠 50mg 3錠 1日3回 毎食直前 90日分
アモバン錠 7.5 1錠 1日1回 寝る前 90日分

<効能効果>

●グルコバイ錠 50mg・100mg、OD錠 50mg・100mg(アカルボース)
糖尿病の食後過血糖の改善(ただし、食事療法・運動療法によっても十分な血糖コントロールが得られない場合、又は食事療法・運動療法に加えて経口血糖降下薬若しくはインスリン製剤を使用している患者で十分な血糖コントロールが得られない場合に限る)

どうした?どうなった?

患者は、もともとA病院で診察を受けており、6か月前にグルコバイ錠が90日分処方されていた(処方2)。その後は、病状が安定していたことから、自宅近くのB診療所で診察、処方されていた。
患者は、半年ぶりにA病院を定期健診の目的で受診し、<処方1>が処方され、薬局に来局した。薬剤師は、半年前に来局したときの薬歴を確認し、以前から服用している薬剤であることを確認した。患者はお薬手帳を持っておらず、薬剤師はB診療所からの処方薬を把握していなかった。
投薬の際、患者にグルコバイ錠などを見せたところ、これらの薬はB診療所を受診して処方されていることがわかった。さらに、糖尿病の検査数値が改善したので、現在はグルコバイ錠を処方されておらず、糖尿病の薬は全く服用していないとのことだった。
薬剤師は、処方内容と患者の訴えが異なることから、A病院の医師へ疑義照会を行った。その結果、グルコバイ錠は処方中止となり、糖尿病の薬についてはB診療所の医師の指示を仰ぐようにとの回答だった。

なぜ?

A病院の医師は、患者への確認が不十分だった(医師は半年前と同じ)。即ち、B診療科にかかっていて、糖尿病の治療を受けていることを失念していた。半年前には、A病院からグルコバイ錠などが処方されていたが(処方2)、服用が終了する3か月後からはB診療所で糖尿病などの治療を受けることになっていた。しかし、A病院では、カルテにそのことが記載されておらず、半年前の処方が同じ内容でそのまま出されてしまったと考えられる。
患者がお薬手帳を持参しなかったこともあり、医師、薬剤師ともに、薬歴の確認が不十分となった。

ホットした!

基幹病院などで定期健診を受けている患者においては、途中で、地域の診療所、クリニック、医院などで診察を受け、処方を受けている可能性がある。従って、患者に他の医療施設受診と処方薬の有無を確認することは必須である。本事例では、B病院から前回は3か月分の処方であったが、今回の受診は6か月後であり、空白の3か月はどうなっていたのかを確認する必要がある。
患者に、お薬手帳の携帯の意義を伝え、必ず活用してもらうように指導する。

もう一言

今回は、基幹病院の定期受診の途中で、処方薬が中止になった事例であったが、他にも、処方薬が追加になったり、用法・用量が変更になったりする場合もある。患者にお薬手帳の所持を啓発するとともに、患者から話をよく聞いて処方薬の変更がないかなど注意深く確認し、少しでも疑問があれば医療機関に問い合わせる必要がある。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2017年7月28日

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