Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例48

処方医が変わった際の処方変更に注意、妊婦にテノーミン錠

ヒヤリした!ハットした!

妊娠している患者に対して、これまで処方が中止されていたテノーミン錠が処方された。

<処方>20歳代の女性。病院の循環器科。処方医B。

テノーミン錠 50 1錠 1日1回 朝食後 30日分
フェロミア錠 50mg 2錠 1日2回 朝夕食後 30日分

<効能効果>

●テノーミン錠 25・50(アテノロール)
本態性高血圧症(軽症~中等症)
狭心症
頻脈性不整脈(洞性頻脈、期外収縮)

どうした?どうなった?

患者への循環器科からの処方は約8か月ぶりであった。直近では、約1か月前に産婦人科を受診しており、薬歴に「6か月検診のために受診」と記載されていた。投薬時に再確認したところ、第2子を妊娠中であり7か月目であることが判明した。
患者は、第1子妊娠中に妊娠高血圧症候群と診断を受け、循環器科で本年の1月まで1年半にわたり、テノーミン錠が処方されていた。第2子の妊娠に伴い、循環器科で定期的に診察を受けていたが、今日は主治医Aが不在だったため、代理の医師Bの診察を受けた。
投薬時に、テノーミン錠の処方について患者に確認したところ、主治医Aと相談して、血圧が安定しているため、降圧治療は中止しているとのことだった。医師Bに疑義照会したところ、テノーミン錠の最終処方が8か月前だったのを見落とし、そのまま処方していたことがわかった。結果、テノーミン錠の処方は削除となり、フェロミア錠のみとなった。

なぜ?

代理の医師Bは、カルテの処方歴の日付の確認と患者への治療状況の確認を十分に行わなかったと考えられる。医師は8か月前の処方歴をみて、最近の処方においても継続されていると誤判断してしまったと考えられる。

ホットした!

前回受診から間隔があいて再受診したケースでは、処方内容に変更がなくても、とりわけ注意深く、患者の疾患や状態の変化をモニタリングする。
処方医がいつもと異なる際や(今回は主治医から代理の医師に変更となっていた)、主治医が変更となった際にも十分な注意が必要であり、少しでも疑問あれば必ず疑義照会する。

もう一言

妊婦へのアテノロールの投与
テノーミン錠の医療用添付文書では、「アテノロールは胎盤を通過し、臍帯血にあらわれる。また、高血圧症の妊婦への投与により胎児の発育遅延が認められたとの報告があるので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。」とされている。

(テノーミン錠の医薬品添付文書, 2015年1月改訂, アストラゼネカ株式会社)

妊娠高血圧症候群とは
「妊娠20週以降、分娩後12週まで高血圧がみられる場合、または、高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものでないもの」として定義されている。子癇、脳出血などの脳血管障害、常位胎盤早期剥離、HELLP症候群、肺水腫などを合併し、母胎の状態を悪くすることがある。軽症では外来通院での食事のカロリー制限や塩分制限(1日7から8g以下)といった治療が中心となり、重症では入院して降圧薬や子癇を抑える点滴注射などが行われる。一般に、出産後に状態は改善するとされる。

(日本妊娠高血圧学会, 妊娠高血圧症候群 Q&A,)

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2017年6月21日

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