Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例42

重曹のところ重カマを誤処方、更に、薬剤師が見逃し

ヒヤリした!ハットした!

重曹から重カマへ処方変更になり、患者はひどい下痢になった。実は、医師の処方意図は重曹であったが、別物(重カマ)を誤処方し、更に薬剤師の処方チェックミスが重なり、患者に交付されてしまった。

<処方1>50歳の男性。A病院の内科。印字出力/処方オーダ。

炭酸水素ナトリウム「ケンエー」(重曹) 3g 1日3回 毎食後 28日分

<処方2>Bクリニックの内科。印字出力/処方オーダ。

重質酸化マグネシウム「ケンエー」(重カマ) 3g 1日3回 毎食後 28日分

*患者はこの他に9剤を併用しており、併用薬には変更なし。

<効能効果>

●炭酸水素ナトリウム「ケンエー」(炭酸水素ナトリウム)

(経口)

  • ・下記疾患における制酸作用と症状の改善
    胃、十二指腸潰瘍、胃炎(急・慢性胃炎、薬剤性胃炎を含む)、上部消化管機能異常(神経性食思不振、いわゆる胃下垂症、胃酸過多症を含む)
  • ・アシドーシスの改善、尿酸排泄の促進と痛風発作の予防

(含嗽・吸入)

  • ・上気道炎の補助療法(粘液溶解)

●重質酸化マグネシウム「ケンエー」(酸化マグネシウム)

  • ・下記疾患における制酸作用と症状の改善
    胃・十二指腸潰瘍、胃炎(急・慢性胃炎、薬剤性胃炎を含む)、上部消化管機能異常(神経性食思不振、いわゆる胃下垂症、胃酸過多症を含む)
  • ・便秘症
  • ・尿路蓚酸カルシウム結石の発生予防

どうした?どうなった?

当該患者の担当医であるS医師は、A病院の内科の非常勤医であった。また、S医師の常勤先はBクリニックであった。当該患者は、A病院から Bクリニックへ受診先を変更したが、S医師の受け持ち患者であることには変わらなかった。変更後のBクリニックで<処方2>が処方され、クリニックの門前の薬局で調剤をうけた。その際、重曹から重カマに処方変更になっていたが(理由不明)、そのまま投薬されてしまった。患者は便秘でないにもかかわらず重カマを服用して下痢が止まらなくなり、数日後に以前から薬をもらっていた当該薬局に相談しにきた。
当該薬局の薬剤師は、これまで処方されていた重曹ではなく、下剤として用いられる重カマが処方されたため下痢が止まらないのではないかと患者に説明し、S医師に相談するように伝えた。この時点で、重カマを調剤した門前の薬局に連絡をとったところ、患者はその薬局の新患であったが、お薬手帳を確認しておらず(患者が所持していたかどうかは不明)、患者の持参した分包された重曹を見て同じものが処方されていると思い、疑義照会しなかったということであった。門前薬局の薬剤師は、重カマと重曹を見誤ってしまった。
翌月、患者が来局した際、Bクリニックの処方は重曹へと変更になっていた。

なぜ?

医師は、処方作成時に重曹を処方すべきところ、「重(じゅう)」が同じであることから重カマを想起して誤処方してしまった。また、用法用量「3g 1日3回毎食後」が両剤で同じであった。
重曹から重カマに処方変更となったが、Bクリニックの門前薬局の薬剤師は患者のそれまでの処方内容を確認せず、何の疑問も持たずにそのまま調剤し交付してしまった。

ホットした!

門前の薬局の処方チェックミスであるが、この事例を通してお薬手帳やかかりつけ薬剤師・薬局の重要性を再認識する必要がある。
本事例では、下痢の副作用が発見された後、当該薬局の薬剤師は、患者に対してS医師に相談するように伝えた。この場合、重カマを調剤した薬局ではないので致し方なかったかもしれないが、場合によっては、患者の同意を得て当該薬局の薬剤師が疑義照会するべきであった。これにより処方中止など、確実に処方変更がもたらされるだろう。

もう一言

炭酸水素ナトリウム「ケンエー」の性状は「白色の結晶または結晶性の粉末」、重質酸化マグネシウム「ケンエー」の性状は「白色の粉末または粒」と一般的な白色の散剤である。既成の分包品であれば包装に製剤名が記載されていることから識別は可能であるが、薬局で分包した場合には外観から製剤を識別することは困難である。したがって、分包した場合には分包紙に製剤名を印字するようにしたい。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2017年4月11日

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