Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例38

TS-1、処方箋に記載された服用・休薬期間が実際と違う

ヒヤリした!ハットした!

薬剤師は処方箋に記載されている通り、ティーエスワン配合OD錠の服用期間が3週間であり、今回はそのうちの2週間分が処方されていること、2週間後に残りの1週間分が処方されるであろうことを説明した。しかし、患者は2週間服用して1週間休薬(適応外処方)のはずだと述べ、認識に乖離があることがわかった。

<処方1>70歳の男性。病院の消化器外科。印字出力/処方オーダ。

ティーエスワン配合 OD錠 T20 4Cap 1日2回 朝夕食後 14日分
【gastric carcinoma】 TS-1 + CDDP
TS-1を3週間服用後・2週間休薬
シナール配合錠 3錠 1日3回 毎食後 14日分

*処方箋に、コメントとして癌腫と化学療法レジメンが記載されている。

<効能効果>

●ティーエスワン配合 OD 錠 T20・T25、配合カプセル T20・T25、配合顆粒 T20・T25(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤)

胃癌、結腸・直腸癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、手術不能又は再発乳癌、膵癌、胆道癌

どうした?どうなった?

処方箋発行元の病院では、5 年半ほど前より、処方箋に癌種が英名で記載され、また、化学療法レジメンの内容をインターネットで閲覧できるようになっており、治療内容が把握しやすくなっている。

 

患者は胃癌である。化学療法レジメンどおりの治療では骨髄抑制に伴う副作用がたびたび現れ、入退院を繰り返していた。

 

今回の処方1の処方日数について、上記のように処方箋の記載内容と患者の認識に乖離があることから、医師に疑義照会した。その結果、患者の申し出(2 週間服用して 1 週間休薬)が正しかったことが判明した。

なぜ?

医師が処方箋のコメントを修正し忘れていた。すなわち、医師は、今回の診察で処方内容を見直すことにし、患者にも服薬スケジュールを説明して処方を変更したが、処方箋のコメントは以前のままでオーダしてしまった。

その後、オーダリングシステム上では「TS-1を3週間投薬後・2週間休薬」のコメントを修正ができないことも判明した。すなわち、化学療法レジメンに沿わないコメントは入力できないようになっていた。

ホットした!

化学療法レジメンにおける服薬スケジュール、処方箋の服薬スケジュールの記載、患者が認識している服薬スケジュールなどの間に齟齬がある可能性を常に意識して対応する必要がある。

化学療法レジメンどおりの予定で治療計画を立てても、副作用の状況などによりレジメンの内容が修正されることもある。今回の患者のように服薬スケジュールを正確に把握できている患者ばかりではないことから、化学療法レジメンどおりでない場合の病院側からの情報提供方法(薬薬連携)の構築が必要である。

もう一言

TS-1 + CDDP(シスプラチン)
胃癌における化学療法レジメンの一つ(非小細胞肺癌などでも用いられる)。ティーエスワンを3週間服用、2週間休薬のスケジュールで投与し、その第8日目にシスプラチンを投与する。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2017年1月12日

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