Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例37

シプロキサンとルボックスは併用禁忌?

ヒヤリした!ハットした!

薬剤師は、今回処方されたシプロキサン錠と他院から処方されているルボックス錠が“併用禁忌”だと勘違いしてしまい、危うく疑義照会しそうになった。

<処方1>60歳代の男性。A病院の泌尿器科。オーダリング/印字処方。

シプロキサン錠 100mg 3錠 1日3回 毎食後 14日分

<処方2>B病院の精神科(C薬局が調剤)。

ルボックス錠 25 2錠 1日3回 毎食後 14日分、他3種類

<効能効果>

●シプロキサン錠 100mg・200mg(シプロフロキサシン塩酸塩)

表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎、慢性膿皮症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、乳腺炎、肛門周囲膿瘍、咽頭・喉頭炎、扁桃炎、急性気管支炎、肺炎、慢性呼吸器病変の二次感染、膀胱炎、腎盂腎炎、前立腺炎(急性症、慢性症)、精巣上体炎(副睾丸炎)、尿道炎、胆嚢炎、胆管炎、感染性腸炎、バルトリン腺炎、子宮内感染、子宮付属器炎、涙嚢炎、麦粒腫、瞼板腺炎、中耳炎、副鼻腔炎、炭疽

●ルボックス錠 25・50・75(フルボキサミンマレイン酸塩)

うつ病・うつ状態、強迫性障害、社会不安障害

どうした?どうなった?

患者は数か月前から前立腺炎を繰り返しており、その度にシプロキサン錠を服用していた(処方1)。シプロキサン錠を調剤していたX薬剤師がお薬手帳で併用薬を確認したところ、ルボックス錠を服用中である(処方2、B病院の精神科からの処方がC薬局で調剤された)ことに気づき、とっさに両薬剤が“併用禁忌”だと勘違いしてしまった。X 薬剤師は、患者が併用禁忌の薬剤をずっと併用していたと思い込み、他のY薬剤師に相談した。

相談を受けたY薬剤師も併用禁忌だと思い込み、疑義照会しようとしたが、何となく気になったため添付文書を確認したところ、両薬剤の間に相互作用はないことが判明した。

なぜ?

勘違いした両薬剤師は、シプロキサン錠とテルネリン錠<チザニジン塩酸塩>、ルボックス錠とテルネリン錠がそれぞれ併用禁忌であることを認識しており、転じてシプロキサン錠とルボックス錠も併用禁忌だと勘違いしてしまった(図2)。

シプロキサン・ルボックス・テルネリン間の相互作用の関係。 図

図2.シプロキサン・ルボックス・テルネリン間の相互作用の関係。

ホットした!

シプロフロキサシンは生体内でほとんど代謝を受けず、尿中排泄量の約80%が未変化体であり、腎排泄型の薬剤である。フルボキサミンは主にCYP2D6で代謝される肝消失型の薬剤である。したがって、両薬剤はCYP1A2を強力に阻害するが、お互いの間で相互作用が起こる可能性は低いと考えられる。

AとXが併用禁忌、BとXが併用禁忌の場合に、AとBの組み合わせについて、問題ありもしくは問題なしと単純に思い込むのではなく、それぞれの解毒メカニズムなどを考慮した上で、相互作用の問題があるかどうか精査する必要がある。

もう一言

チザニジンの相互作用

チザニジンは主にCYP1A2で代謝される肝消失型の薬物である。シプロフロキサシンとフルボキサミンはCYP1A2を阻害することから、チザニジンの血中濃度を上昇させる。チザニジンのAUCが、シプロフロキサシンとの併用で10倍、フルボキサミンとの併用で33に上昇したとの報告がある。チザニジンの血中濃度が上昇すると、著しい血圧低下、傾眠、めまい、精神運動能力低下などが現れることがある。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2017年1月12日

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