Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例35

患者は手のしびれを訴えているのにメルカゾール錠が処方された

ヒヤリした!ハットした!

患者は約5年前から糖尿病の加療中であり、今回初めてメルカゾール錠5mgが処方されたが、メチコバール錠500μgの処方間違いであることが発覚した。

<処方1>72歳の女性。病院の内分泌糖尿病内科。処方オーダリング。

メルカゾール錠 5mg 3錠 1日3回 毎食後 42日分

<効能効果>

メルカゾール錠5mg(チアマゾール)甲状腺機能亢進症

メチコバール錠250μg・500μg、細粒 0.1%(メコバラミン)末梢性神経障害

どうした?どうなった?

調剤した薬剤師と鑑査した薬剤師は、内分泌糖尿病内科から添付文書の用法・用量の範囲内でメルカゾール錠 5 mg が処方されていたことから、新たに甲状腺疾患を併発したのだろうと考え、処方内容に問題ないと判断した。

一方、投薬した薬剤師が患者にどのような症状で受診したか確認したところ、1 カ月前より手が痺れて受診していたことが判明した。また、甲状腺について何か医師より説明を受けなかったか確認したところ、何も説明を受けていなかった。

薬剤師は患者の症状から、メルカゾール錠 5 mg ではなく、末梢神経障害に適応があるメチコバール錠 500μg が正しい処方ではないかと考え、医師に疑義照会を行った。その結果、以下の処方に変更となった。

<処方2> メチコバール錠 500μg 3錠 1日3回 毎食後 42日分

なぜ?

本事例において、医師が「メルカゾール錠 5 mg」と「メチコバール錠 500μg」を取り違えて処方した背景として、医薬品名が類似していること及び内分泌糖尿病内科での処方頻度が共に高いことが考えられる。

医薬品名の類似に関しては、共に最初が「メ」で始まり「ール」で終わる 6 文字で構成され、音の響きも似ている。また、500μg と 5 mg で数字の「5」、アルファベットの「g」が一致する。

ホットした!

初めて処方された薬剤については、医師の処方意図に関係した情報(患者の症状、患者が医師から聞いた内容)を患者や家族に確認する。

更に、処方に少しでも疑問があれば、医師に疑義照会して問題的を確認し、納得してから調剤にかかる。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2016年12月26日

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