Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例29

複合的な要因により入院中にユリノームを倍量処方されていた

ヒヤリした!ハットした!

ユリノーム錠の規格単位が前回の 25 mg 錠から、今回は 50 mg 錠へ変更になっていた。患者に確認したところ、病院に入院していたが、ユリノーム錠の量(25 mg 錠の半錠)は以前から変更ないはずだと回答を得た。

処方医に疑義照会したところ、入院時に患者からユリノームは「0.5 錠」と聞き、病院の採用規格単位であるユリノーム錠 50 mg だと思い込んで処方していたことが判明した。

<処方1>50歳の男性。診療所。処方オーダリング。前回処方。

Rp1)ユリノーム錠 25mg
テノーミン錠 25
0.5 錠 1日1回朝食後 42日分
1錠 1日1回朝食後 42日分
Rp2)ウルソ錠 100mg 4錠 1日2回朝夕食後 42日分

<処方2>病院の循環器科。処方オーダリング。今回処方。

Rp1)ユリノーム錠 50mg
テノーミン錠 25
0.5 錠 1日1回朝食後 42日分
1錠 1日1回朝食後 42日分
Rp2)ウルソ錠 100mg 4錠 1日2回朝夕食後 42日分

<効能効果>ユリノーム錠 25 mg・50 mg(ベンズブロマロン)

下記の場合における高尿酸血症の改善

痛風、高尿酸血症を伴う高血圧症

どうした?どうなった?

この患者は、近医の診療所にて「ユリノーム錠 25 mg 0.5 錠」を処方されていた。病院の循環器科に入院時、持参薬を持ってこなかったため、ユリノーム錠は 0.5 錠で服用していると口頭で主治医に説明した。病院ではユリノーム錠の採用規格が 50 mg 錠のみであったため、医師は 50 mg の半錠と思い込み、入院していた約 4 週間は「ユリノーム錠 50 mg 0.5 錠」が処方されていた。

退院後の初受診である今回も、入院中と同じユリノーム錠 50 mg が処方された。薬剤師が薬歴からユリノーム錠が増量になっていることに気づき、患者と医師に確認したところ、上記の状況が判明した。医師によれば、幸いにも量を多く飲んでしまったことによる有害事象はなかったとのことである。

なぜ?

(医師)

  • ・診療所の医師が、正しく処方薬を記載した紹介状を出していなかった可能性がある。
  • ・病院の医師は、1) 前医からの紹介状の処方薬の記載を十分に確認しなかった、2) 患者へ口頭でしか服用薬の確認を行なわなかった、3) ユリノーム錠に複数規格があることを認識していなかった可能性がある。

(患者)

  • ・入院時に服用中の薬を持参せず、かつお薬手帳も作成していなかったため、病院の医師が服用薬の確認を十分にできなかった。
  • ・ユリノーム錠に複数規格があることを認識していなかった。

ホットした!

服用薬を正確に把握するためにも、日頃より患者に対してお薬手帳の有用性を説明し、異なる医療機関や薬局に行く際には必ず携帯、提示するように啓発する必要がある。

可能であれば、患者自身が「どんな薬をどれだけ飲んでいるか」を認識できるような服薬指導を積み重ねる必要がある。

病院の医師には、採用薬以外の規格があることを十分認識してもらい、注意深い処方作成をうながす。転院などで前処方が不明確な場合には、前医やかかりつけの薬局に照会するなど、患者以外から確実な情報を得るべきである。

薬局では、処方元の医療機関に変更があった場合には、医薬品の採用状況が異なることなども意識して処方チェックを行い、不明瞭な点があれば必ず疑義照会を行う。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2016年10月4日

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