Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例25

脳出血治療中の患者にセレコックスが処方された

ヒヤリした!ハットした!

脳出血治療中の患者にセレコックス錠<セレコキシブ>が処方されたが、薬剤師の患者インタビューが不十分で、危うくそのまま投薬するところであった。

<処方1>60歳代の男性。病院の整形外科。オーダー/印字出力。

セレコックス錠 100mg 2錠 1日2回 朝夕食後 14日分
ムコスタ錠 100mg 2錠 1日2回 朝夕食後 14日分
セルタッチパップ 70 3袋(6枚/袋) 痛むとき膝に貼付

<効能効果>セレコックス錠 100mg(セレコキシブ)

下記疾患並びに症状の消炎・鎮痛

関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、腱・腱鞘炎

手術後、外傷後並びに抜歯後の消炎・鎮痛

どうした?どうなった?

代理として患者の妻が来局。これまでの経緯を聞くと、患者は膝の痛みのため近医を受診してロキソニン錠<ロキソプロフェンナトリウム>を服用中であったが、改善しないので大学病院の整形外科を受診したということだった。

併用薬を聞くと、ディオバン錠 80mg<バルサルタン>とアムロジン錠 5mg<アムロジピンベシル酸塩>を服用中だとの返答だった。ディオバンなどのアンジオテンシンII受容体拮抗薬は、セレコックスとの併用により降圧効果が減弱する可能性があるので、併用注意となっているため、「血圧が下がりにくいなどのトラブルが生じたら連絡してください」と伝えたところ、患者の妻が「実は、脳出血で入院手術し、治療中である」と言い出した。

セレコックスの添付文書の警告欄には、「シクロオキシゲナーゼ (COX)-2 選択的阻害剤等の投与により、心筋梗塞、脳卒中等の重篤で場合によっては致命的な心血管系血栓塞栓性事象のリスクを増大させる可能性がある」と記載されている。薬剤師は、当該患者は脳出血であり、なんらかの脳血管障害を有している場合にはセレコックスの併用は避けた方が良いと判断した。

そこで、担当医に疑義照会し、セレコックスはロキソニンに変更された。

なぜ?

医師は整形外科医であり、患者の心疾患、脳疾患などについてほとんど認識がなかった。

薬剤師は、セレコックスの作用機序、警告の内容などを十分に認識できていなかったため、心筋梗塞、脳卒中の既往の有無を確認できなかった。また、患者から有用な情報を得るために適切な質問を投げかけることができなかった。

患者の妻は、心臓、頭と膝の問題は別個のものと捉えており、脳出血で入院したことなど無関係だと思っていたため、自発的に病歴を話さなかったということであった。

ホットした!

警告などが発せられている薬剤に関しては、その内容を十分に習得しておく必要がある。

疾患部が違えば無関係だ(膝の痛みで整形外科にかかっているから、循環器系の疾患に関する情報は関係ない)と考える患者もいるため、患者からの発言を待つだけでなく、薬剤師から積極的に薬剤毎に必須な病態に関して具体的に聞くように心がける。例えば、今回のセレコックスであれば、警告内容に準じた質問(「心臓の手術や脳の障害で入院したことはないですか?」など)を実施する。

もう一言

大腸ポリープ切除患者の再発予防(本邦での本剤の効能・効果ではない)を検討した海外臨床試験において、セレコキシブ200mg又は400mgを1日2回、約3年間連日投与したところ、心血管系血栓塞栓性事象の発現に用量相関的な増加(プラセボに対するリスク比:200mg 投与群 2.6、400mg 投与群 3.4)が認められている。また、他のCOX-2選択的阻害薬(ロフェコキシブ)でも、大腸ポリープ長期予防投与試験結果より、重篤な心血管系血栓塞栓性事象発現のリスクが増加することが示されている。さらに、イブプロフェンやナプロキセン等のCOX-2選択性の低い非ステロイド性消炎鎮痛薬の安全性データに関する研究報告等においても、心血管系血栓塞栓性事象発現リスクの増加がみられている。COX-2選択的阻害薬やCOX-2選択性の低い非ステロイド性消炎鎮痛薬の投与により、投与期間及び投与量に依存した心血管系血栓塞栓性事象発現のリスクは否定できないとされている。1)

引用文献:
1)セレコックス錠100mg、200mgの医薬品インタビューフォーム(2016年5月改訂)
澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2016年7月20日

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