お薬手帳の提示があってもボグリボースの先発品と後発品が重複処方
毎回、患者から医師や薬剤師へお薬手帳の提示があったのに、患者はA大学病院から処方されたベイスンOD錠を毎食後に、B内科クリニックから処方されたボグリボース錠0.2mg「ケミファ」を毎食前に重複服用していた。
<処方1>70 歳代の男性。A大学病院の循環器内科(2/20 の処方)。
高血圧症など。処方オーダリング。当該薬局で調剤。
ディオバン錠 | 160mg 1錠 1日1回 朝食後 14日分 |
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ノルバスク錠 | 5mg 1錠 1日1回 朝食後 14日分 |
ベイスン | OD錠 0.3mg 3錠 1日3回 毎食前 14日分 |
サンリズムカプセル | 50mg 2Cap 1日2回 朝夕食後 14日分 |
ルプラック錠 | 4mg 1錠 1日1回 朝食後 14日分 |
プルゼニド錠 | 12mg 1錠 1日1回 寝る前 14日分 |
以上、朝食後のみ一包化
レスタミン軟膏 | 30g かゆいところ |
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<処方2>B内科クリニック(11/15 の処方)。他の薬局で調剤。
EPL | カプセル 250mg 6Cap 1日3回 毎食後 | ボグリボース錠 | 0.2mg「ケミファ」 3 錠 1日3回 毎食前 |
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*処方日数不明
<処方3>C総合病院(11/19 から継続服用)。他の薬局(処方2を調剤している薬局とは違う)で調剤。
プロレナール錠 | 5μg 3 錠 1日3回 毎食後 |
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タケプロン | OD 錠 15mg 1 錠 1日1回 夕食後 |
ロキソニン錠 | 60mg 3 錠 1日3回 毎食後 |
モーラスパップ | 30mg(6 枚/袋) 3 袋 貼付 |
レスタミンコーワクリーム | 1% 20g 塗布 |
*処方日数不明
<効能効果>ベイスン錠 0.2・錠 0.3・OD 錠 0.2・OD 錠 0.3(ボグリボース)
○糖尿病の食後過血糖の改善
(ただし、食事療法・運動療法を行っている患者で十分な効果が得られない場合、又は食事療法・運動療法に加えて経口血糖降下剤若しくはインスリン製剤を使用している患者で十分な効果が得られない場合に限る)
○耐糖能異常における2型糖尿病の発症抑制(OD 錠 0.2、錠 0.2 のみ)
(ただし、食事療法・運動療法を十分に行っても改善されない場合に限る)
2/20、投薬時の患者との会話から、患者がベイスン OD 錠を間違って毎食後に服用していることが判明した。患者によると、どの病院でも毎回お薬手帳を医師に見せているということであった。患者が持参したお薬手帳で併用薬を確認し、薬剤師が「A大学病院の循環器内科からの薬以外に服用中のお薬は、C総合病院のお薬(<処方3>)だけですね。」と尋ねると、患者は「いいや、確かもう一つあるはず・・・」と返答し、最新情報が貼付されているページの 10 ページくらい前にあったB内科クリニックの処方薬(<処方2>)を見せた。C総合病院の処方薬は11/19以降、ほぼ受診日ごとにお薬手帳に記録してあったが、B内科クリニックの処方薬の記録は 11/15 で止まっていた。
さらに話を聞いていると、ベイスン OD 錠 0.3mg を毎食後、ボグリボース錠0.2mg「ケミファ」を毎食前に服用していることが発覚した。薬歴をみると、12/15にA大学病院からのベイスン OD 錠が 0.3mg に増量されており、その際には、患者は服用方法を認識していたようであった。
患者の了解を得て、A大学病院の医師に連絡し状況(両剤の併用)を伝えたところ、B内科クリニックのボグリボース錠 0.2mg「ケミファ」を直ちに中止するようにと指示されたので、患者にもそのことを伝えた。B内科クリニックの医師へは、A大学病院の医師が重複処方について連絡することになった。更に、ベイスン OD錠 0.3mg の作用機序、食前に服用する理由等を患者に説明した。
患者は、お薬手帳にB内科クリニックからの処方を継続的に記載(貼付)していなかったため、これまで各医療機関ではA大学病院とC総合病院の2つからのみ薬を処方されていると判断されていた。
A大学病院からベイスン OD 錠 0.3mg が処方され始めた当時、患者は服用方法(毎食前服用)を把握していたが、途中から間違えて(毎食後服用)服用してしまっていたと考えられる(理由は不明)。
A大学病院とC総合病院からの処方は、薬剤師がお薬手帳に処方薬シールを貼付していたが、Bクリニックからの処方薬を調剤した薬局では、薬剤師がシールを貼付していなかった(更に、患者も貼付せず、シールをもらうだけであった)。
B内科クリニックの医師は、A大学病院でベイスン OD 錠 0.3mg が処方されていることを見逃した、或いは、両剤が同一成分であることを認識せずに、ボグリボース錠0.2mg「ケミファ」を処方し続けていた可能性が考えられる。
ベイスン OD 錠 0.3mg は一包化調剤(錠剤)され、ボグリボース錠 0.2mg「ケミファ」はPTP包装で交付されており、重複処方であることに患者は全く気がつかなかった(更に、両剤が PTP シートで交付されていても、同一の主成分の薬剤であることには気づかなかった可能性がある)。
お薬手帳を常に医療者へ提示する患者であっても、前回と処方内容に変更がなければ、お薬手帳に処方薬情報を記載したシールを貼らなくても良いと考える患者は少なくないことを認識すべきである(薬剤師が常に貼付するのであれば問題はない)。
お薬手帳の情報は常に最新のものにしておき、医療従事者に確認してもらうことの重要性を患者に啓発する必要がある。
お薬手帳へは薬剤師が必ず薬剤シールを貼付する。
お薬手帳を提示した患者でも、特に高齢者の場合には、お薬手帳を開きながら、「今飲んでいる薬は、○○病院からと、△△病院からと・・・の薬ですね。」とこちらから問いかけて確認する必要がある。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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