非専門医からの初回テオドール錠77日分処方で副作用が惹起?!
病院の循環器科から初回でテオドール錠(1日量 400mg)<テオフィリン> が77日分処方された。疑問を感じながらも疑義照会せずに投薬したところ、患者が数日後に副作用と思われる症状(頭痛、吐き気、足の痙攣)を訴えて、相談するために来局した。
<処方1>60歳代の男性。病院の循環器科。処方オーダリング。
リポバス錠 5mg | 1錠 1日 1回 夕食後 77日分 |
---|---|
マーズレン S配合顆粒 | 1.5g 1日 3回 毎食後 77日分 |
ヘルベッサー Rカプセル 100mg | 2Cap 1日 2回 朝夕食後 77日分 |
テオドール錠 100mg | 4錠 1日 2回 朝夕食後 77日分 |
<効能効果>
- 気管支喘息、喘息性(様)気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫
患者は息苦しく咳が出ていたため、以前から受診している循環器科で相談したところ、循環器科の医師は少し喘息気味と診断し、いつもの薬に追加して、気管支拡張薬のテオドール錠を処方した(処方1)。その際、医師は、患者に「テオドール錠を数日服用して、調子が良ければ続けるように、副作用等が現れた場合は中止するように。」と指示していた。患者は2カ月に1回しか循環器科に受診していないこともあり、定期薬と同じように、初めて服用するテオドール錠も77日分処方されていた。
処方1を鑑査した薬剤師、投薬した薬剤師ともに、テオドール錠が初回から長期処方されていることに疑問を感じながらも、疑義照会を行わなかった。患者は数日後に当薬局を訪れ、服用し始めてすぐに喘息症状は改善したが、3日目から頭痛、吐き気、足の痙攣がひどくなったことを訴えた。薬の副作用の可能性があるかどうかの相談で、副作用であればもうテオドール錠は服用したくないとの申し出であった。
その時対応した薬剤師は、テオドール錠の副作用が出ている可能性があることを説明し、専門の呼吸器科を受診するように勧めた。薬剤師は、患者の許可を得て循環器科の医師へ報告すべきあったが、なされていない。患者は、当薬局に相談後すぐに同じ病院の呼吸器科を受診した。呼吸器科の医師からは、「喘息まではいっていないが、近い症状になっている。」との診断を受け、喘息治療薬である吸入ステロイド薬のパルミコート200タービュヘイラー<ブデソニド>が処方された。呼吸器科から循環器科の医師に連絡されたかどうかは不明である。
副作用の相談をした時、呼吸器科の医師からは、「テオドールをいきなり処方する状態ではない。」と言われたとのことであった。その後、この患者はテオドール錠を中止し、パルミコート200タービュヘイラーで症状が落ち着いている。
投薬した薬剤師は、循環器科からテオドール錠が初回にも関らず77日分処方されていたため疑問には感じたが、患者との会話で医師の診断結果からの判断と確認したため、疑義照会せずにそのまま投薬してしまった。
鑑査した薬剤師も、薬歴上テオドール錠が初回に77日分であること、またそれが循環器科より処方されていることを疑問に思ったが、医師への疑義照会はせず、投薬者にその件を伝えるのも怠った。
初回にテオフィリンが長期の日数で処方されている場合は必ず医師に疑義照会し、日数の確認、場合によっては短期への処方変更などを提案する。
副作用と思われる症状が発見されたら、患者の同意を得て、処方医師に報告することがベターである。
今回の場合のように専門医からの処方で無い場合は、医師に疑義照会して処方理由を明確にする必要がある。
治療ガイドラインを参照して疑義照会をするよう心掛ける。今回の場合、ガイドラインでは、まず吸入ステロイド薬の使用(当該呼吸器科の判断でもある)を考慮すべきであったと考えられる。
テオドールのように血中濃度をモニタリングする薬剤については、特に注意を要する。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
-
- 事例211
- プレドニン錠中止時の漸減を忘れる落とし穴
-
- 事例206
- スタレボ配合錠L100を半錠で調剤できる?
-
- 事例203
- エフピーOD錠とアジレクト錠の併用?
-
- 事例202
- 包数の多い散剤処方に介入して服薬の煩わしさの改善
-
- 事例201
- 点眼薬のみが処方されていた理由
-
- 事例200
- 家族への服用中止の指示は、電話連絡だけでは不十分
-
- 事例199
- 酸化マグネシウム原末が義歯にはさまって効果減弱
-
- 事例197
- 薬名類似による誤処方を発見し疑義照会
-
- 事例196
- 医師の一言『効果の高い薬』で不安になった患者
-
- 事例194
- 認知症患者の服薬状況の把握不足
-
- 事例192
- 患者が自己判断でリリカOD錠の服用を中止
-
- 事例188
- 指導不足によるタリビッド点耳液の不適正使用
-
- 事例187
- 薬の併用による副作用について疑義照会
-
- 事例186
- アロプリノール錠の服薬状況の認識不足
-
- 事例185
- 患者が一包化薬の分包ごと服用していいかと質問
-
- 事例184
- ゼローダ錠の服薬スケジュールに関して疑義照会
-
- 事例183
- イーケプラ錠の不均等処方について疑義照会
-
- 事例182
- レキップCR錠の急激な減量を発見し疑義照会
-
- 事例181
- ニトロペン舌下錠の保管方法に関する服薬指導不足
-
- 事例179
- 処方意図が不明なため疑義照会を検討
-
- 事例177
- 患者のジェネリック医薬品に対する考え方が変化
-
- 事例176
- 知識不足で『レスパイトケア』の意味が分からず
-
- 事例174
- 骨折でドライブスルー利用した患者への配慮不足
-
- 事例173
- 腎臓疾患患者へのアスパラカリウム錠処方を疑義照会
-
- 事例172
- 薬剤師の聞き方で誤解を生んだ疑義照会
-
- 事例170
- 疑義照会にて薬名類似による処方ミスと発覚
-
- 事例169
- キサラタン点眼液 点眼し忘れ時の対応の説明不足
-
- 事例168
- 慢性腎不全患者へのワントラム錠処方を疑義照会
-
- 事例167
- 口腔内の乾燥によるニトロペン舌下錠の溶解遅延
-
- 事例166
- ウルティブロ吸入後のうがいは必要?
-
- 事例165
- 患者の服薬不遵守を察知し、メトグルコ錠の処方変更
-
- 事例162
- フェントステープの使用法と注意すべき点とは?
-
- 事例161
- 個装箱内の残薬に気づかず破棄
-
- 事例158
- 複合要因から後発品の普通錠を徐放錠で誤調剤
-
- 事例157
- 禁忌薬の認識不足で妻が自身への処方薬を夫と共用
-
- 事例155
- テルネリン錠の増量処方を見落とし調剤
-
- 事例154
- プラリア皮下注には天然型のデノタスが必須と勘違い
-
- 事例153
- 患者からの申告がなく緑内障既往歴を把握せずに投薬
-
- 事例150
- 胃全摘患者へのランソプラゾール処方を疑義照会
-
- 事例147
- 中止すべきバイアスピリンを患者が誤って服用
-
- 事例144
- 前回処方年月日を見誤り、的外れな服薬指導
-
- 事例142
- セレスタミンにプレドニン追加でステロイドが重複
-
- 事例141
- セルニルトン服用が花粉症に効くという仮説
-
- 事例139
- 手書きの麻薬処方箋の「(8時」を「18時」と誤読
-
- 事例138
- リパクレオンカプセルの1シート当たりの数に注意
-
- 事例137
- パーキンソン病治療薬による病的賭博の副作用を発見
-
- 事例134
- ムコスタ点眼液UDの副作用の説明不足
-
- 事例131
- 患者の認識と処方内容に違和感を覚え疑義照会
-
- 事例128
- アロマシン錠に関しての患者の理解度の確認不足
-
- 事例124
- 介護者の負担軽減のために服薬ゼリーの使い方を指導
-
- 事例122
- 腎機能が悪くない患者にケイキサレート散が処方
-
- 事例121
- クラビット錠の疑義照会で、偽造処方箋が発覚
-
- 事例120
- ユベラNカプセルなど3剤の継続処方の確認不足
-
- 事例118
- ノルスパンテープの貼付期間の説明不足
-
- 事例111
- 高用量ベネットによる副作用の認識不足
-
- 事例109
- 水痘患者への亜鉛華単軟膏の処方を疑義照会
-
- 事例107
- 端数のPTPシートを組み合わせて調剤
-
- 事例105
- フォルテオ保管方法の説明不足
-
- 事例104
- 腎機能低下者に通常用量でシタグリプチンが処方
-
- 事例102
- 患児の外見と記載の体重に違和感を覚え疑義照会
-
- 事例101
- ナウゼリンの1回量過量の見逃し
-
- 事例98
- 異なるPTPシートによる数量の誤調剤
-
- 事例97
- 漢方薬初回処方患者への副作用の説明不足
-
- 事例96
- 視覚障害者に最適なうがい液へ疑義照会
-
- 事例95
- 1回量と1日量を読み違えて誤調剤
-
- 事例89
- スタチンの一般名を病院外来事務職員が誤認
-
- 事例76
- 一部手書きの処方箋により用法を誤認識
-
- 事例64
- 服用時点の押印ミスで朝夕の薬を逆に投薬
-
- 事例60
- 患者が激怒!了承を得ずに行った疑義照会
-
- 事例37
- シプロキサンとルボックスは併用禁忌?
-
- 事例14
- インスリン製剤はどれも同じと思った患者
-
- 事例10
- 遮光が必要なのはモーラステープ?
-
- 事例06
- 手書き処方せんを読み間違って半量を調剤
-
- 事例01
- え!?…私ってうつ病?