Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例19

リーマス錠に投与期間上限があると勘違いし、倍量処方

ヒヤリした!ハットした!

リーマス錠200mg<炭酸リチウム>が倍量処方されたが、維持量の範囲内の投与量であったため、あやうくそのまま薬剤を交付しそうになった。

<処方1>70歳代の女性。病院の精神科。オーダー/印字出力。

リーマス錠 200mg 4錠 1日 2回 朝食後・寝る前 14日分

<効能効果>

  • 躁病および躁うつ病の躁状態

<用法用量>

  • 炭酸リチウムとして、成人では通常 1 日 400~600 mg より開始し、1 日 2~3 回に分割経口投与する。以後 3 日ないし 1 週間毎に、1 日通常 1200 mg までの治療量に漸増する。改善がみられたならば症状を観察しながら、維持量 1 日通常 200~800 mg の 1~3 回分割経口投与に漸減する。なお、年齢、症状により適宜増減する

どうした?どうなった?

リーマス錠が前回の1日量2錠から4錠に急激な増量となっていた。調剤者、鑑査者はともに、薬歴を確認して前回の2倍量となっていることに気がついたが、リーマスの維持量の範囲(1日200~800mg)内であったことから、医師の処方意図はリーマス錠の増量投与であると思い込んで調剤・鑑査を行った。投薬時に、患者より服用量に変更はないはずであるとの申し出があった。疑義照会を行ったところ、医師はリーマス錠の投与期間上限が14日分であると勘違いしており、倍量処方により28日分を確保するのが処方意図であることが判明した。以下のように適正な処方へと変更となった。

<処方2>精神科、オーダー/印字出力

リーマス錠 200mg 2錠 1日 2回 朝食後・寝る前 28日分

患者には用量・用法に変更がないことを説明し、次回受診日が4週間後であることを確認した。

なぜ?

医師はリーマス錠に処方日数制限(14日分以内)があると思い込んでおり、次回受診日(4週間後)までの投与のために倍量で処方した(実際の服用は2錠/日のつもり)。

他の倍量ではない処方薬(例えば28日分)と一緒に処方されている場合、倍量処方に気がつきやすいが、本処方はリーマス錠のみの処方せんであったため、他剤と処方日数を比較することができず、処方日数に疑念をもたずに調剤・鑑査をすり抜けてしまった。

ホットした!

精神科から処方される向精神薬には、投与日数に上限が設けられている薬剤が多いため、医師がこのような勘違いをしている可能性があることを把握しておかなければならない。

今回のように用法・用量を患者に毎回確認し、患者の認識と処方せんが異なる場合は疑義照会を行なうように徹底する。可能であれば、患者の次回来院日まで薬が足りるかどうかを確認し、処方日数と照らし合わせる。

医師は、本事例のような倍量処方は患者の服薬間違いが起こる可能性が高いので回避すべきである。更に、「投与期間制限」のある医薬品について、どの様な場合にどの様に処方設計を行うかなどの認識が必要である。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2016年5月9日

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