フォサマック錠、B病院の医師からは効能効果、A病院の医師からは副作用のみを説明されて混乱した患者
これまでB整形外科病院の医師からフォサマック錠35mg(アレンドロン酸ナトリウム)の有用性についての説明を受けていた患者が、A病院の歯科口腔外科の医師から当該薬の副作用についての説明を聞いて、本剤の服用継続に不安を感じ、当該薬局に相談に訪れた。
<処方1>80歳の女性。A病院の歯科口腔外科。オーダー/印字出力。
ケナログ口腔用軟膏 0.1% | 5g(1本) 1日3回 塗布 |
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<処方2>B整形外科病院、オーダー/印字出力
フォサマック錠 35mg | 1錠 1日1回 起床時 2日分 |
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<効能効果>
- フォサマック錠 35mg (アレンドロン酸ナトリウム水和物)
- ※骨粗鬆症
患者は、B整形外科病院の医師から「フォサマック錠35mgは骨粗鬆症によく良く効く薬です。1週間に1回服用すればよいタイプなので、とても便利な薬です。」と説明を受けており、9週間前からフォサマック錠35mgを服用していた。
その後、歯科治療のためにA病院の歯科口腔外科を受診した。診察時に医師から併用薬について質問されたので、B整形外科病院とC病院の内科から薬をもらって服用中であることを伝えた。すると、歯科口腔外科の医師は、「フォサマック錠35mgを服用すると顎の骨がもろくなる。今からフォサマック錠35mgの服用をやめても薬は骨にたまっているので、服用前の状態にはもどらない。医師に相談するように。」と患者に言ったとのこと。
この説明を聞いた患者は、「もとの状態に戻らない」という言葉を重く受け止め、フォサマック錠35mgの服用継続に疑問を感じた。患者は今までに当該薬局から薬を受け取ったことはなかったが、フォサマック錠35mgについての説明を聞くために来局した。
対応した薬剤師は、フォサマック錠 35 mg の効能効果と副作用について説明した。また、副作用の顎骨壊死、顎骨骨髄炎のリスク因子(悪性腫瘍、化学療法、放射線治療、口腔の不衛生、歯科処置の既往)について説明し、全ての患者に起こる副作用ではないことを伝えた。さらに、骨粗鬆症の治療の重要性とビスホフォネート製剤の有用性についても説明したうえで、急に服薬を中止したり、B整形外科病院の受診をやめないように伝え、今後の治療方針について医師とよく相談するように促した。
患者は、B整形外科病院の医師から「フォサマック錠35mgは良い薬である。」と言われていた。即ち、薬の効能、良い評価の部分のみを説明されていた。
一方、A病院の歯科口腔外科の医師からは「顎の骨がもろくなる。」と言われていた。即ち、薬の副作用、負の部分のみを説明されていた。患者から見れば全く逆の説明であり、困惑してどちらの説明が本当なのか不安になった。
(医師)
医師は、効能効果の説明だけではなく、副作用についても言及する。例えば今回の場合、顎骨壊死、顎骨骨髄炎を伝える必要がある。その時には、患者に不安を与えて服薬コンプライアンスを左右しかねない表現を避けること、専門用語を避けて分かりやすい説明を心がけることが必要である。また、歯科や口腔外科にかかっている場合には、患者がビスホスホネート製剤を服用していることを歯科医師に事前に説明し、治療計画を協議しておく必要がある。
(歯科医師)
患者が日々服用している薬剤の把握は必要である。特にビスホスホネート製剤を服用中、服用歴、服用予定がある場合には、それを認識した後に、処方医と連絡をとり、今後のビスホスホネート製剤の使用や歯科での治療計画について事前に協議する必要がある。
(薬剤師)
患者からの薬の相談においては、先ず、処方薬について医師からどのような説明を受けているか正確に確認した上で、慎重に対応する。以前から処方せんを応需している患者に対しては、薬歴を確認した上で対応することが可能であるが、今回のような初来局の患者による相談では、とりわけ患者の基本情報情報や訴え・トラブルなどをよく調査する。
場合によっては、患者の了解を得た上で、収集した患者からの訴え・トラブルを医師に書面や電話などでフィードバックし、対応案を協議して決定する。
(ビスホスホネート製剤による顎骨壊死)
ビスホスホネート製剤による顎骨壊死について、368症例のレビューが報告されている(Woo SB et al., Ann Intern Med. 144(10): 753-761, 2006.)。その報告の多くは多発性骨髄腫または骨転移に対する静注の症例であるが、骨粗鬆症の治療のため経口投与されていた例も報告されている。そのうち、60%が投与前に主に抜歯等の歯科外科的手術を受けていた。
また、オーストラリアでまとめられたビスホスホネート製剤による顎骨壊死の106件の報告においても、アレンドロン酸(ボナロン錠、フォサマック錠)又はリセドロン酸(ベネット錠、アクトネル錠)を経口投与された症例がそれぞれ19件、2件報告されている(ADRAC, Aust Adv Drug React Bull. 25(4):14, 2006.)。
顎骨壊死のメカニズムは不明だが、顎には口腔の細菌叢があるため、咀嚼によって繰り返し細菌に曝露されることで、ビスホスホネート製剤による免疫機能の抑制が関与して、顎骨壊死が引き起こされる可能性が考えられている。
すでにビスホスホネート製剤の添付文書の「重要な基本的注意」や「重大な副作用」においても注意が喚起されているが、骨粗鬆症治療においても顎骨壊死が生じるリスクとベネフィットを事前に評価しておくことが重要である。特に、骨壊死のリスクは抜歯後に有意に上昇するので、処方開始時、服用中は歯科治療の状況のモニターも心がけるべきだろう。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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