Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例14

インスリン製剤はどれも同じと思った患者

ヒヤリした!ハットした!

レベミル注フレックスペン<インスリン デテミル>が無くなったため、代わりにノボラピッド注フレックスペン<インスリン アスパルト>を朝昼夕食直前に続けて就寝前に使用していた。

<処方1>60歳の男性。病院の内科。オーダー/印字出力。

自己注射薬剤

ノボラピッド注フレックスペン 300単位 (6-6-6) 3キット 1回分
ノボリン N注フレックスペン 300単位 (0-0-0-8) 2キット 1回分

<処方2>5月2日。

自己注射薬剤

ノボラピッド注フレックスペン 300単位 (6-6-6) 3キット 1回分
レベミル注フレックスペン 300単位 (0-0-0-12) 2キット 1回分

※ インスリン製剤のみ記載。実際の処方箋に忠実に記載。

<効能効果>

  • ノボラピッド注フレックスペン(インスリン アスパルト (遺伝子組換え))
    1筒中3mL(100単位/mL)300単位:無色澄明液
    • ※インスリン療法が適応となる糖尿病
    • ※ヒトインスリンのB鎖28位のプロリン残基をアスパラギン酸に置換したインスリン アスパルトを有効成分とする超速効型インスリンアナログ製剤
  • レベミル注フレックスペン(インスリン デテミル(遺伝子組換え))
    1筒中3mL(100単位/mL)300単位:無色澄明液
    • ※インスリン療法が適応となる糖尿病
    • ※ヒトインスリンに脂肪酸側鎖を付加し、血漿中のアルブミンとの結合を利用して、作用の持続化を図った持効型溶解インスリンアナログ製剤
  • ノボリン N注フレックスペン(インスリン ヒト(遺伝子組換え))
    1筒中3mL(100単位/mL)300単位:白色懸濁液
    • ※インスリン療法が適応となる糖尿病
    • ※持続化剤としてプロタミン硫酸塩を用いたイソフェン(NPH)インスリンであり、その作用持続性からみて中間型製剤

どうした?どうなった?

患者は血糖コントロールが悪く、<処方1>から<処方2>に変更になった。レベミル注フレックスペンは2本処方されたが、患者は1本を自宅で無くしてしまった。6月3日に患者が来局し、「レベミルを1本無くしてしまった。仕事が忙しかったので来られなかった。だから、もうひとつの方(ノボラピッド注フレックスペン)を寝る前にも12単位打っていた。でもそちらも無くなりそうなのでもらいに来た。同じインスリンでしょ?だから代わりに使っても良いと思った。」と述べた。即ち、ノボラピッド注フレックスペンを朝昼夕に続けて、就寝前にも使用していたことになる。
幸いに、夜間の低血糖はなかったが、血糖コントロールが悪く、6月3日の受診により、各インスリン製剤の用量は増量となっていた。

なぜ?

患者は、インスリン製剤を自宅で無くしてしまったが、その事を薬剤師に連絡しなかったため、その後の対応が出来なかった。
薬剤師から患者に対するインスリン製剤の説明が不足していた。また、インスリン製剤が同じだと考える患者がいることを想定していなかった。したがって、「代用はしてはいけない、代用はできない」ことを特に強調した服薬指導を行わなかった。インスリン製剤がノボリンN注フレックスペンからレベミル注フレックスペンへ変更になった直後でもあり、患者の適正使用を助けるべくもっと細心の注意を払うべきであった。

ホットした!

重要な事(処方変更など)は口頭だけでなく、メモ書きを入れるなど患者が後で確認できるような方法をとることを徹底する。
また、なんらかの問題(薬剤を無くしたなど)が生じた時にはすぐに相談をしてもらえるように、日頃から信頼関係を築く必要性がある。

もう一言

本事例では処方以外の他のインスリン製剤と間違ったわけではないが、レベミル注フレックスペンの使用上の注意の解説には以下の注意書きがある。
「本剤は、速効型インスリン製剤及び超速効型インスリンアナログ製剤と同様に無色澄明である。これらの製剤を誤って投与した場合、急激に血糖値が下がり、低血糖を起こす可能性があるので、間違えることのないよう患者に十分な指導を行うことが必要である。」
真意は不明であるが、患者がインスリン製剤はどれも同じだと考えた原因に、水性懸濁液であるノボリンN注フレックスペンとは異なり、レベミル注フレックスペンが無色澄明であったことも関与しているかもしれない。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2016年2月15日

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