プレドニゾロンが6mgから10mgに増量、患者は9mgのみを誤服薬
関節リウマチの治療中の患者であった。当初プレドニゾロン6mg(5mg×1錠と1mg×1錠)<処方1>を服用していたが、疼痛が増したため受診予約日よりも早めに受診し、プレドニゾロン4mg(1mg×4錠)が増量された<処方2>。このような経緯で、医師は合計して「10mg」服用するように指示していたが、実際は患者に上手く伝わっておらず、患者は、5mg錠を1錠と、新たに処方された1mg錠を4錠の合わせて「9mg」を服用していたことが今回発覚した。
<処方1>60歳代の女性。病院の整形外科、オーダー/印字出力
ハイペン錠 200mg | 2錠 1日 2回 朝夕食後 35日分 |
---|---|
セルベックス細粒 10% | 1g 1日 2回 朝夕食後 35日分 |
リウマトレックスカプセル 2mg | 2Cap 1日 1回 朝食後 5日分(木曜日) |
リウマトレックスカプセル 2mg | 1Cap 1日 1回 夕食後 5日分(木曜日) |
リウマトレックスカプセル 2mg | 2Cap 1日 1回 朝食後 5日分(金曜日) |
フォリアミン錠 5mg | 1錠 1日 1回 朝食後 35日分 |
プレドニン錠 5mg | 1錠 1日 1回 朝食後 35日分 |
プレドニゾロン錠 1mg | 1錠 1日 1回 朝食後 35日分 |
<処方2(前回)>整形外科、オーダー/印字出力
プレドニゾロン錠 1mg | 4錠 1日1回 夕食後 35日分 |
---|
<処方3(今回)>整形外科、オーダー/印字出力
ハイペン錠 200mg | 2錠 1日 2回 朝夕食後 35日分 |
---|---|
セルベックス細粒 10% | 1g 1日 2回 朝夕食後 35日分 |
リウマトレックスカプセル 2mg | 2Cap 1日 1回 朝食後 5日分(木曜日) |
リウマトレックスカプセル 2mg | 1Cap 1日 1回 夕食後 5日分(木曜日) |
リウマトレックスカプセル 2mg | 2Cap 1日 1回 朝食後 5日分(金曜日) |
フォリアミン錠 5mg | 1錠 1日 1回 朝食後 35日分 |
プレドニン錠5mg | 1錠 1日1回 朝食後 35日分 |
プレドニゾロン錠 1mg | 3錠 1日1回 朝食後 35日分 |
プレドニゾロン錠 1mg | 2錠 1日1回 夕食後 35日分 (*) |
<効能効果>
- プレドニン錠 5mg、プレドニゾロン錠 1mg
以下の領域の疾患に使用される。- 1. 内科・小児科領域:(1) 内分泌疾患、(2) リウマチ疾患、(3) 膠原病、(4) 川崎病の急性期(重症であり,冠動脈障害の発生の危険がある場合)、(5) 腎疾患、(6) 心疾患、(7) アレルギー性疾患、(8) 重症感染症、(9) 血液疾患、(10) 消化器疾患、(11) 重症消耗性疾患、(12) 肝疾患、(13) 肺疾患、(14) 結核性疾患(抗結核剤と併用する)、(15) 神経疾患、(16) 悪性腫瘍、(17) その他の内科的疾患
- 2. 外科領域
- 3. 整形外科領域
- 4. 産婦人科領域
- 5. 泌尿器科領域
- 6. 皮膚科領域
- 7. 眼科領域
- 8. 耳鼻咽喉科領域
- 関節リウマチにおける関節局所の鎮痛
前回受診の際、患者の疼痛が悪化したという訴えにより、服用中のプレドニゾロン6mgにプレドニゾロン4mg(1mg×4錠)が追加処方となった(処方2)。患者はプレドニン錠5mgの服用はそのまま継続したが、追加となったプレドニゾロン錠1mgについては追加となった4錠のみ服用し、服用中であった1錠は中止してしまった。結果、医師が意図した10mgではなく、9mgのみを服用していた。
今回、患者は前回から服用している量(実際は、プレドニゾロン9mg)で改善効果があったことを医師に伝えたため、医師は10mgをきちんと服用しての結果と思い、処方意図のプレドニゾロン量10mgで処方せんを交付した。 投薬した薬剤師は医師に疑義照会を行い、患者は前回処方以降にプレドニゾロン9mgしか服用していなかったことを伝えた。結果、(*)のプレドニゾロン錠1mg 2錠 1日1回 夕食後の処方が1錠へと用量変更となり、前回から間違って服用していたのと同量の9mgの処方となった。
患者は、すでに服用していたプレドニン錠5mgはそのままで、プレドニゾロン錠1mgは、新たに処方された4mgに変更すると思い込んでしまった。そのため5mg + 4mg = 9mgとなってしまった。医師はプレドニゾロン錠1mgを増量するときに、具体的にどう服用するか説明しなかった。もし、「今服用している5mg錠の1錠と1mg錠の1錠に加えて、今回の1mg錠の4錠、即ち合計で5mg + 1mg + 4mg = 10mgを服用してください。」と説明していれば、飲み間違いはなかったかもしれない。 薬剤師も、上記の様な具体的な服用方法を患者に説明していなかった。説明していれば、患者の誤解が明らかになった可能性がある。また、薬剤師が推測した服薬量と患者の主張する服薬量が乖離している場合には、疑義照会して確認する必要がある。
薬歴より追加処方であることが推測された場合、患者に、服用方法及び前回との用量の変化について、医師から説明を受けているかを必ず確認しなければならない。更に、薬剤師が推測した服薬量との乖離がある場合には、必ず疑義照会して医師の処方意図を確認する。
本事例は、医師の処方意図は10mg/日であったが、患者は実際には9mg/日しか服用していなかった。しかし、この量で改善効果が得られていることが判明し、今後は9mg/日で服用治療が続行されることになった。患者の服薬間違いが功を奏した形となった。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
-
- 事例211
- プレドニン錠中止時の漸減を忘れる落とし穴
-
- 事例206
- スタレボ配合錠L100を半錠で調剤できる?
-
- 事例203
- エフピーOD錠とアジレクト錠の併用?
-
- 事例202
- 包数の多い散剤処方に介入して服薬の煩わしさの改善
-
- 事例201
- 点眼薬のみが処方されていた理由
-
- 事例200
- 家族への服用中止の指示は、電話連絡だけでは不十分
-
- 事例199
- 酸化マグネシウム原末が義歯にはさまって効果減弱
-
- 事例197
- 薬名類似による誤処方を発見し疑義照会
-
- 事例196
- 医師の一言『効果の高い薬』で不安になった患者
-
- 事例194
- 認知症患者の服薬状況の把握不足
-
- 事例192
- 患者が自己判断でリリカOD錠の服用を中止
-
- 事例188
- 指導不足によるタリビッド点耳液の不適正使用
-
- 事例187
- 薬の併用による副作用について疑義照会
-
- 事例186
- アロプリノール錠の服薬状況の認識不足
-
- 事例185
- 患者が一包化薬の分包ごと服用していいかと質問
-
- 事例184
- ゼローダ錠の服薬スケジュールに関して疑義照会
-
- 事例183
- イーケプラ錠の不均等処方について疑義照会
-
- 事例182
- レキップCR錠の急激な減量を発見し疑義照会
-
- 事例181
- ニトロペン舌下錠の保管方法に関する服薬指導不足
-
- 事例179
- 処方意図が不明なため疑義照会を検討
-
- 事例177
- 患者のジェネリック医薬品に対する考え方が変化
-
- 事例176
- 知識不足で『レスパイトケア』の意味が分からず
-
- 事例174
- 骨折でドライブスルー利用した患者への配慮不足
-
- 事例173
- 腎臓疾患患者へのアスパラカリウム錠処方を疑義照会
-
- 事例172
- 薬剤師の聞き方で誤解を生んだ疑義照会
-
- 事例170
- 疑義照会にて薬名類似による処方ミスと発覚
-
- 事例169
- キサラタン点眼液 点眼し忘れ時の対応の説明不足
-
- 事例168
- 慢性腎不全患者へのワントラム錠処方を疑義照会
-
- 事例167
- 口腔内の乾燥によるニトロペン舌下錠の溶解遅延
-
- 事例166
- ウルティブロ吸入後のうがいは必要?
-
- 事例165
- 患者の服薬不遵守を察知し、メトグルコ錠の処方変更
-
- 事例162
- フェントステープの使用法と注意すべき点とは?
-
- 事例161
- 個装箱内の残薬に気づかず破棄
-
- 事例158
- 複合要因から後発品の普通錠を徐放錠で誤調剤
-
- 事例157
- 禁忌薬の認識不足で妻が自身への処方薬を夫と共用
-
- 事例155
- テルネリン錠の増量処方を見落とし調剤
-
- 事例154
- プラリア皮下注には天然型のデノタスが必須と勘違い
-
- 事例153
- 患者からの申告がなく緑内障既往歴を把握せずに投薬
-
- 事例150
- 胃全摘患者へのランソプラゾール処方を疑義照会
-
- 事例147
- 中止すべきバイアスピリンを患者が誤って服用
-
- 事例144
- 前回処方年月日を見誤り、的外れな服薬指導
-
- 事例142
- セレスタミンにプレドニン追加でステロイドが重複
-
- 事例141
- セルニルトン服用が花粉症に効くという仮説
-
- 事例139
- 手書きの麻薬処方箋の「(8時」を「18時」と誤読
-
- 事例138
- リパクレオンカプセルの1シート当たりの数に注意
-
- 事例137
- パーキンソン病治療薬による病的賭博の副作用を発見
-
- 事例134
- ムコスタ点眼液UDの副作用の説明不足
-
- 事例131
- 患者の認識と処方内容に違和感を覚え疑義照会
-
- 事例128
- アロマシン錠に関しての患者の理解度の確認不足
-
- 事例124
- 介護者の負担軽減のために服薬ゼリーの使い方を指導
-
- 事例122
- 腎機能が悪くない患者にケイキサレート散が処方
-
- 事例121
- クラビット錠の疑義照会で、偽造処方箋が発覚
-
- 事例120
- ユベラNカプセルなど3剤の継続処方の確認不足
-
- 事例118
- ノルスパンテープの貼付期間の説明不足
-
- 事例111
- 高用量ベネットによる副作用の認識不足
-
- 事例109
- 水痘患者への亜鉛華単軟膏の処方を疑義照会
-
- 事例107
- 端数のPTPシートを組み合わせて調剤
-
- 事例105
- フォルテオ保管方法の説明不足
-
- 事例104
- 腎機能低下者に通常用量でシタグリプチンが処方
-
- 事例102
- 患児の外見と記載の体重に違和感を覚え疑義照会
-
- 事例101
- ナウゼリンの1回量過量の見逃し
-
- 事例98
- 異なるPTPシートによる数量の誤調剤
-
- 事例97
- 漢方薬初回処方患者への副作用の説明不足
-
- 事例96
- 視覚障害者に最適なうがい液へ疑義照会
-
- 事例95
- 1回量と1日量を読み違えて誤調剤
-
- 事例89
- スタチンの一般名を病院外来事務職員が誤認
-
- 事例76
- 一部手書きの処方箋により用法を誤認識
-
- 事例64
- 服用時点の押印ミスで朝夕の薬を逆に投薬
-
- 事例60
- 患者が激怒!了承を得ずに行った疑義照会
-
- 事例37
- シプロキサンとルボックスは併用禁忌?
-
- 事例14
- インスリン製剤はどれも同じと思った患者
-
- 事例10
- 遮光が必要なのはモーラステープ?
-
- 事例06
- 手書き処方せんを読み間違って半量を調剤
-
- 事例01
- え!?…私ってうつ病?