Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例09

添付文書「QT延長を起こす薬剤」の記載では不親切!

ヒヤリした!ハットした!

薬剤師は、オーラップ錠とドグマチール錠の併用禁忌を見逃しそうになった。

<処方1>50歳代の女性。病院の神経科。処方オーダリング。

オーラップ錠 1mg
2錠 1日1回 朝食後 14日分
ドグマチール錠 50mg
6錠 1日3回 毎食後 14日分

<オーラップ錠 1mgの効能効果>

  • 統合失調症
  • 小児の自閉性障害、精神遅滞に伴う下記の症状
    動き、情動、意欲、対人関係等にみられる異常行動
    睡眠、食事、排泄、言語等にみられる病的症状
    常同症等がみられる精神症状

<ドグマチール錠 50mg の効能効果>

  • 胃・十二指腸潰瘍
  • 統合失調症
  • うつ病・うつ状態

どうした?どうなった?

患者はオーラップ錠<ピモジド>を服用中であったが、ある時ドグマチール錠<スルピリド>が併用となった(<処方1>)。オーラップ錠は併用禁忌薬、併用注意薬が多いので気になり、添付文書を確認したところ、併用禁忌薬、併用注意薬にドグマチール錠の名前はなかった。また、ドグマチール錠の添付文書の併用禁忌の項にもオーラップ錠名前はなかった。

そこで、併用は問題ないと思いかけたが、再度オーラップ錠の添付文書を読み直すと、禁忌の項に「QT延長を起こすことが知られている薬剤を投与中の患者」との記載があった。

ドグマチールは、重大な副作用として「QT 延長、心室頻拍」が挙がっており、QT 延長、心室頻拍を生じることがある。したがって、オーラップの添付文書からすると併用禁忌となることに気づいたため、医師に疑義照会しドグマチールは中止となった。

なぜ?

両薬剤の添付文書の書き方が極めて不明確、不親切である。添付文書上の併用禁忌、注意薬の欄には具体的な相手の薬剤名の記載があるものと思いこんでいた。

ホットした!

販売元製薬会社のお薬相談室に確認したところ、オーラップ錠の添付文書の禁忌の項の「QT延長を起こすことが知られている薬剤」とは、添付文書副作用の項に「QT延長を起こす」の記載がある薬剤全てを示すということであった。多くの薬剤名を添付文書に記載することは物理的に不可能であるため、現況の記載となっていると考えられる。したがって、薬剤師が副作用の項に「QT延長を起こす」の記載のある薬剤名を正確に把握しておく必要があると痛感した。

オーラップ錠の添付文書のような書き方にも対応できるように、QT 延長に限らずどのような薬剤にどのような重大な副作用、高頻度に発生する副作用があるかをしっかり想起できるように情報を把握しておくことが必要だと感じた。

もう一言

添付文書の薬物相互作用欄には「QT 延長を起こすことが知られている薬剤」と同じように、「モノアミン酸化代謝酵素(MAO)阻害薬」のように特定の医薬品名が記載されておらず、医療現場で医師、薬剤師は処方作成、処方チェックに混乱している。

メジコン錠 15mg、メジコン散 10%<デキストロメトルファン臭化水素酸水和物>

併用禁忌(併用しないこと)

  • 薬剤名等
    MAO阻害剤
  • 臨床症状・措置方法
    臨床症状:セロトニン症候群(痙攣、ミオクローヌス、反射亢進、発汗、異常高熱、昏睡等)があらわれるとの報告がある。
  • 機序・危険因子
    デキストロメトルファンは中枢のセロトニン濃度を上昇させる。MAO阻害剤はセロトニンの代謝を阻害し、セロトニンの濃度を上昇させる。併用によりセロトニンの濃度が更に高くなるおそれがある。
澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2016年1月6日

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