え!?・・・私ってうつ病?
帯状疱疹の患者にトリプタノール錠 25<アミトリプチリン塩酸塩>が処方になっていたが、抗うつ薬として説明してしまった。
<処方1> 85歳の女性。病院の内科。処方オーダリング。
- バルトレックス錠 500
- 4錠 1日 2回 朝夕食後 7日分
- トリプタノール錠 25
- 1錠 1日 1回 夕食後 7日分
- メチコバール錠 500μg
- 3錠 1日 3回 毎食後 7日分
- コカール錠 200mg
- 6錠 1日 3回 毎食後 7日分
- *バルトレックス錠 500
- :抗ウイルス化学療法薬
- *メコバマイド錠 500μg
- :末梢性神経障害治療薬
- *コカール錠 200mg
- :解熱鎮痛薬
<効能効果> 精神科領域におけるうつ病・うつ状態、夜尿症。
患者への投薬の際、トリプタノール錠 25 の医師による処方意図に関して気にはなったが、調べずそのまま「抗うつ薬」として説明してしまった。
患者から「え! 私がうつ病? うつの症状はないですよ?! 医師からは痛み止めの薬が出ると聞いていますが・・・」と返答した。患者は一瞬、医師の処方間違いではないかと不安になった。
あわてて別の薬剤師に確認をとり、帯状疱疹の痛み止めとして適応外※で処方されることを告げられ、患者に間違った説明をしてしまったことをお詫びした。患者は、複数の症状に使用される薬であることを理解し、納得してもらった。
※アミトリプチリン塩酸塩は、末梢性神経障害性疼痛に関して、 薬事・食品衛生審議会において公知申請に係る事前評価が終了し、 薬事承認上は適応外であっても保険適用の対象となる (平成27年7月31日付)
薬剤師は、トリプタノールの適応外使用に関して知識不足だった。処方意図が不明で疑問をもったにもかかわらず、その時点で調べたり、別の薬剤師にたずねたりしなかった。
適応外使用についての知識を確実に持ち、間違った服薬指導をしないようにする。処方に少しでも疑問点を見つけた場合、そのままにせず、しっかりと調べる。
アミトリプチリン塩酸塩をはじめとする三環系抗うつ薬は、帯状疱疹後神経痛などの神経障害性疼痛の治療に古くから用いられている。2006 年ヨーロッパ神経学会の神経障害性疼痛治療に関するガイドラインにおいて、アミトリプチリン塩酸塩は第一選択薬に推奨され、以降、各学会のガイドラインでも同様の取り扱いとなっている。本邦においても、日本神経治療学会、日本ペインクリニック学会の治療ガイドラインにおいてアミトリプチリン塩酸塩は、第一選択薬に推奨されている。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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