薬学部が6年制に移行したことに伴い、国家試験の問題も変遷し続けています。筆者のような4年制時代の薬剤師から見ると、まったく異なる試験に見える科目もあるくらいです。国家試験の問題には時代を反映している部分があり、出題傾向から世の中の流れを読み解くことができます。今回は、近年の薬剤師国家試験の動向から、今後の薬剤師に求められる知識を探っていきましょう。

物理・化学・生物の問題から分かることとは?!

物理では、放射線・放射性物質に関する出題が以前よりも増えています。中には、原発事故で問題となったストロンチウム90の時間推移など、以前の薬学部では習うことがなかった核種に関する出題もあります。これには、福島原発事故の後に、線量測定などで薬剤師が活躍したり、地域の薬剤師会が放射性物質検査を積極的に行うようになったりしたことが背景として考えられます。また、いまだに放射線量が高い地域もあり、今後も放射線に関して心配する方がいるので、薬剤師も放射線の専門家でいて欲しいという願いがあるのではないでしょうか。
化学では、核酸の塩基に関する出題が以前よりも多くなっています。遺伝子検査や遺伝子を利用したオーダーメード創薬などが今後増えていくことが予想されているので、薬剤師でも、とくにこの知識は身につけるべき、ということではないでしょうか。
生物も、化学と同様、翻訳後修飾やゲノムに関する問題が増えています。国がゲノム医療に特化した、がんゲノム医療中核拠点病院を指定している時流から、今後は薬剤師もゲノムに関して知っていて当たり前という時代が来ることは想像に難くありません。すでに薬剤師になっている方、とくに4年制時代の方は、あまりゲノムに関しての勉強をしてこなかったのではないのでしょうか。教科書レベルで大丈夫なので、今一度しっかりと勉強すると良いかと思います。

衛生・薬理・実務から見えることとは??

衛生は、かなり広い分野をカバーしているのは以前から変わりませんが、最近は発がん物質や発がんに関与するウイルスに関する問題が出題されるようになっています。また発がんを含めた放射線の影響のメカニズムに関する問題も以前よりも増えています。がんが国民病と呼べるくらいに増えているので、今後、薬剤師ががん患者さんと接する機会が増えていくことが予想されます。がんの知識に関しては、薬学部であまり習っていない方も多いと思いますので、がんの原因はしっかりと知っておくことが良いかと思います。
薬理や病態・薬物治療でも、抗がん剤や話題になっているがん種(肺がんや乳がんなど)に関する問題が増えています。薬剤師も今後は発がんからがん治療まで、がんに関する一連の知識は身につけておきましょう。
実務に関しては、漢方薬に関する問題が以前よりも増えている印象です。今後のオーダーメード医療やセルフメディケーション推進の動向の中で、漢方薬は有用であると考えられるようになってきたことが背景の1つとして挙げられるでしょう。加えて、最近では漢方薬の効能についてのメカニズムが次第に分かかってきたこと、また、がん分野でも漢方薬使用が増えてきていることにも起因していると考えられます。薬局でも、以前より漢方薬を調剤する機会が増えてきたと感じている方も多いと思います。筆者自身も、患者さんからの漢方薬に関する相談が増えてきていると感じます。現役の薬剤師の方には漢方薬の勉強を再度しっかりとすることをおすすめします。漢方薬生薬認定薬剤師や漢方アドバイザーなどといった資格制度を利用するのも有用だと思います。

まとめると、「がん」、「ゲノム」、「放射線」、「漢方薬」になります。一見知っていて当たり前のものばかりですが、逆に当たり前すぎてなかなかまとまって勉強してこなかった方も少なくないことでしょう。ぜひ少しずつ身につけてみてください。

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