前回の基礎編に続きまして、今度は応用的な内容を紹介します。
放射線にも種類が存在します。
薬剤師として最低限知っておかなければならないのは、アルファ(α)線、ベータ(β)線、ガンマ(γ)線、エックス(X)線です。
X線とγ線は放出メカニズムが違うだけでほぼ同じものと考えて大丈夫です(これ以降はγ線で統一します)。

放射線はアルファ、ベータ、ガンマ(エックス)線の3種類。
「セシウム」はベータとガンマ線

α線は大きな球、β線は小さい球、γ線はレーザービームです。
α線は遠くまで飛ばないで、紙切れ一枚で遮蔽できます。
他方、γ線は遠くまで飛べるので鉛でないと遮蔽できません。
レントゲン検査のときに医師や診療放射線技師が鉛の白衣を着るのは、自身への被爆を抑えるためです。β線は中間的性質です。
これらの性質の違いが被爆に影響します。ちなみに今巷で一番問題になっているセシウム137はβ線とγ線を出します。
被爆には、放射線を体外から浴びる外部被爆、放射性物質が体内に入り、体内から被爆する内部被爆があります。
その二つの被爆への影響度が放射線の種類によって違ってきます。内部被爆の影響は、α>β>γですが、外部被爆の影響は逆になり、γ>β>αになります。

放射線によって発生するラジカルも、少量は人体に必要なもの。度を超えると老化やがん化に

人体影響には直接作用と間接作用の二つがあります。
α線のように内部被爆寄与が大きいものはα線が直接生体内のDNAを切断して影響します。
これが直接作用です。
時には致死的になります。
一方、間接作用とは、放射線が生体内の水分子からラジカルと呼ばれる攻撃性の高い物質を作り、そのラジカルがDNAに影響するという二段階反応です。
セシウムに関してはβ線とγ線ですので、どちらかというと間接作用の寄与が大きいです。

また、ラジカルは活性酸素に限りなく近いもので、普段の生活でも紫外線を浴びたりしていると出来ていますが、少量であれば生体内の酵素類が除去します。
また感染症の際に細菌をやっつける武器でもありますので、少量は必要といえますが、大量になると除去しきれず、余ったラジカルが悪さをします。

たとえば細胞膜にラジカルが攻撃をしかけると老化やがん化にもつながります。
ラジカル除去を促進するには、いわゆるアンチエイジングの生活を日々続けることが一番大事です。
食事なら発酵食品や緑黄色野菜、また、サプリなどではビタミンCやポリフェノールといった抗酸化物質も効果的だと考えられます。
メカニズムを理解すると、対処法を提案しやすくなるでしょう。

放射線を使うがん治療って?――副作用を軽減する先進治療も、最近話題に

放射線はがん治療の中でも使われています。
放射線は細胞分裂が盛んな細胞に、優先的に影響を及ぼします。
がん細胞は分裂が盛んな細胞ですので、放射線によって死滅させることができます。

ですが、毛根細胞のように分裂が活発な正常細胞にも影響してしまうことがあります。
ですので副作用として毛が抜けることがあるのです。

最近話題となっている先進治療の一つに、重粒子線治療があります。
重粒子線のエネルギー最高値はある一点だけのピンポイントという特徴を持ちます。
その最高値にがん細胞がくるようにすると、がん細胞だけを死滅させ、他の細胞にはほとんど影響を与えないのです。

γ線などを使用した今までの治療方法では、エネルギーの最高値が広い範囲に分布しているので、がん細胞だけに高いエネルギーを当てるのが困難でした。
こういった先端医療の話も、患者さんとの話の一助になればと思います。