日本人の死因第1位であるがん。昔は致死的な病気の1つでしたが、近年がん治療は進歩をとげ、不治の病ではなくなってきており、慢性疾患となりつつあります。このような状況の中、国はどのような対策を講じているのでしょうか?最新治療の動向を踏まえて、日本のがん対策の変遷をご紹介します。

がんでは死ななくなる時代到来の予感?!

 昨今、これまでとはまったく違う発想の抗がん剤が登場したことで、状況がガラッとかわりました。がん免疫療法のコラムでも触れましたが、オブジーボ®と呼ばれる抗がん剤です。これはがんが免疫細胞に対してかけているブレーキを外してやることで免疫が活性化し、がん細胞を殺すという薬です。肺がんで効果が顕著にみられ、がん治療の救世主とも思われました。ただ、他のがんでは効果が未知であり、また副作用の報告も出てきてはいます。しかし安全性の検証が進み、適応拡大すれば、今後使用する人が増えるでしょう。今後このような免疫療法が確立されていけば、がんで死ななくなる時代が到来することも夢物語ではないでしょう。

対策の基本が治療から予防へ変わってきたワケ

 ここで、日本のがん対策の考え方についてみていきましょう。例えば前述のオブジーボ®は保険適応されていないため、治療には数千万円という高額な費用がかかります。高い効果が見込まれるにも関わらず、保険適応になっていないのはなぜでしょうか?保険適応とした場合、たくさんの人が治療を受けるようになるでしょう。高額な治療費を国が負担していては、財政は破綻し、国民皆保険制度があっという間に崩壊してしまいます。世界に冠たるこの制度を守るためには、「治療第一」だった考えを、根本的に変える必要性が出てきました。その結果導きだされたのが、「がんになる前に予防しよう」という、予防医学に基づいたがん対策なのです。

がん治療とがん予防、両方に力を入れる時代に!

 日本においては、結核などの感染症が大きな問題になっていた背景から、がんへの対策が遅れていました。転機となったのは2006年。「がん対策基本法」が成立し、がん研究の推進やがん専門医療人の育成などが明言化され、国のがん対策が大きく進みました。それに伴い各医療系学部ではがんに関する講義数が増えたり、がんを研究テーマとする研究室が増えたりしてきました。ただ、どちらかというとがん患者さんに焦点を当ててきたので、発生したがんをいかにしてやっつけるかということが主眼となっていました。

がん予防の柱、がん検診受診率向上に向けた取り組みとは?

 がん予防の柱となるのはがん検診です。検診受診率向上ががん予防に繋がります。
 日本においては、昔から個人というよりも一企業人という意識が高い傾向があります。健康診断も企業で年に1回行うことを義務付けていることからも、そういった集団志向がみてとれます。個人に向けてがん検診受けることを呼びかけても、なかなか受ける人が増えにくいのです。
 そこで厚生労働省主導で、企業を巻き込み、がん検診受診率50%超を目指す国家プロジェクト「がん対策推進企業アクション」が立ち上がりました。このアクションに賛同する企業をパートナー企業として選定し、がん対策関連の啓発活動を行うというものです。本格的にがん予防のほうへ国が舵を切ったと言えます。

 予防医学はまさに薬剤師や薬局が力を発揮しやすい分野ですし、これから薬局にもがん予防についての相談をしに来る患者さんが増えていくと考えられます。国のこういった動向を把握して、ぜひ積極的に予防医学の勉強もしてみてください。