超高齢社会に突入した日本において、認知症患者の増加が懸念されています。しかし医学も進歩もおり、より正確に認知症の早期発見が可能となる新しいPET検査が、まもなく保険適応されるといわれています。この検査では薬剤師も重要な役割を果たすので、今のうちからしっかりと知識をつけておくことが必要です。
認知症患者増加は、がん患者増加以上に問題となる?
高齢化に伴って、認知症患者の増加だけでなく、認知症に匹敵する重要疾患であるがんの患者も増加すると予想されています。現に、がん患者も増加傾向にあります。
がんの場合、診断法や治療法の進歩が目覚ましく、多くのがんは罹患しても治すことが可能になりつつあります。近い将来、がんは撲滅できるのではないかという極論も存在しているほどです。
一方、認知症の場合、診断法の確立が発展途上であり、効果的な治療薬もなかなか登場しておりません。認知症に罹患するとQOLの低下が見られるという側面もあり、結果として、認知症患者の増加の方が、がん患者の増加より社会的に問題になるのではないか、と考えられています。
認知症ってそもそもどんな疾患?
認知症の患者数は、2025年におよそ700万人に達すると予想されていています。これは65歳以上の約5人に1人が罹患するという計算です。また、認知症のうち、およそ半数を占めるのがアルツハイマー病です。認知症の種類に関する詳細は以前のコラム(認知症の理解を深めよう!)を参照いただくとして、このコラムではアルツハイマー病に焦点を当ててみましょう。
アルツハイマー病は、残念ながら正確な診断がかなり困難であり、過去のアルツハイマー病患者の症例と比較して似ているかという観点で診断する手法がメインでした。
アルツハイマー病の病態を利用する?
アルツハイマー病に罹患する原因は、アミロイドベータという異常なタンパク質が脳内に蓄積することによるものであると考えられています。裏を返せば、アミロイドベータの蓄積状態を調べることで、アルツハイマー病の診断がより正確にできるということになります。
今回のコラムで紹介するアミロイドPET検査は、アミロイドベータの蓄積状態を画像検査で検出することができるものです。老化とともに誰しも物忘れしやすくなる傾向にあります。そのため、多少の物忘れであれば、認知症ではなく、良性の健忘と考えてよいでしょう。
しかし、近年、「物忘れはあるが認知機能は正常であり、日常生活は自立していて認知症とは診断できない状態」を軽度認知障害(MCI)と見なす傾向があります。この段階でアミロイドベータの沈着が認められる場合には、将来的に高確率でアルツハイマー病を発症すると考えられるため、軽度認知障害の兆候が見えた段階で診断できるのが理想です。
これまでのPET検査とは何が違う?
PET検査と言えば、大半の場合、糖の誘導体に放射線を放出するフッ素18を利用したFDG-PET検査を指します。FDG-PET検査は、多くのがん検出などに広く使われており、一部のがんには保険適応もされています。しかし、糖代謝が活発な組織では糖の取り込みが激しいため、画像検査の肝となる濃淡の差が分かりにくくなるという弱点があります。
アルツハイマー病患者の脳は代謝が低下しているため、FDG-PET検査を使うと、正常な人と比較して脳の画像の濃さが薄くなり、アルツハイマー病であると診断することができます。ただし、脳は糖代謝が活発な組織であり、画像検査の濃淡差は微小な変化となるため、診断が非常に難しいといわれています。
アミロイドPET検査の特徴とは?
実際に使用される医薬品は、フロルベタピル(florbetapir)、フルテメタモル(flutemetamol)、フロルベタベン(florbetaben)の3種類です。これらの医薬品は、いずれも脳内に積極的に移行し、かつ、アミロイドベータの蓄積状態ともよく相関するため、アミロイドベータの蓄積が多いほど画像が濃くなります。FDG-PET検査と同じフッ素18を使用しているため、比較的長持ちし、FDG-PET検査よりもシャープな画像が得られるという特徴があります。
そして何よりの利点は、認知症が発症する10年前に診断ができる場合もあるということです。FDG-PET検査と同様、放射性医薬品専門の製薬企業から購入もできますが、院内で製造できるものでもあるため、今後多くの病院で使用されることが期待されています。
前述のとおり、アミロイドPET検査はまもなく保険適応されるといわれています。保険適用となった場合、これまでよりも院内製造のハードルが下がり、院内製造で供給しようという流れが加速することが予想されます。ここで強調しておきたいのは、院内製造する場合、製造や品質管理のために、放射線・放射性同位元素に精通した専属の薬剤師を配置する必要が出てくるということです。
現状、放射性医薬品に関わる薬剤師がかなり不足しているため、アミロイドPET検査が普及するかどうかは、まさに薬剤師の肩にかかっているといっても過言ではないでしょう。医薬品を一から製造し、品質検定を経て医薬品と認定する、という一連の流れは、薬の専門家として、非常にやりがいのあるものだと思います。
直接関わらない薬局薬剤師であっても、アミロイドPET検査を受けた患者が来局した際に相談される機会も増えるかと思います。今回のコラムを参考にして、今のうちから積極的に勉強してみてください。
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