がんや認知症が増えている昨今、早期発見のために重要な検査といわれているPET検査。一部しか保険適用がなされていないため、高額な検査としても知られています。意外なことに、この検査において、実は薬剤師が重要な役割を担っているのです。今回はPET検査の概要と薬剤師の役割について紹介したいと思います。

PET検査ってそもそもどういう検査?

一般的に認知度が高い画像診断検査としては、CTやMRIなどがあります。これらの検査は人体の形態学的構造の変化を画像化するものです。一方、PET検査では臓器の代謝などの機能状態の変化を画像化します。ただの形だけでなく、代謝変化を詳細に可視化でき、これまでの画像検査とは異なる利点があります。

具体的には、下記のような利点が挙げられるでしょう。
(1)小さな状態のがんでも早期発見が可能
(2)良性・悪性の区別やがんの進行度、性質などが推定可能
(3)がんの広がり方の把握が可能(転移の具合)
(4)検査用衣服を着たままで可能
(5)痛みや負担も少ない

また、注射を1本だけして、あとは横になっているだけで、実際の検査も準備を含めても2時間程度という簡便さもあります。

PET検査に使われている医薬品の原理

PET医薬品候補自体は承認されていないものも含めてたくさんありますが、1番多く使われているのはFDGです。これは、ブドウ糖(グルコース)の分子内のヒドロキシル基の1つが水素基に変化したデオキシグルコースに、放射性物質である18Fをつけたものです。ブドウ糖は生体にとっては重要なエネルギー源であり、特に代謝が激しいがん組織では要求が高くなっています。

FDGを体内に打ち込むと、ブドウ糖のような形をしているため組織に吸収されますが、ブドウ糖と比べて分解しにくいため、組織に集積します。FDGの18Fはポジトロンを放出するので、それを検知することでがん組織を検出できるというのが原理になります。がん組織は正常組織よりもブドウ糖要求性が高く、FDGの集積率も高いため、多くのポジトロンシグナルが検出される部分にはがん細胞が存在するということがわかるわけです。

逆に言うと、ブドウ糖要求性がもともと高い部位やそもそもブドウ糖を必要としないがんの検出が困難というデメリットもあります。加えて、炎症組織にもブドウ糖が集まりやすいため、炎症性変化部位なのか、がんなのかを区別することは困難です。

PET検査で薬剤師が重要な訳とは?

PET検査ではなぜ薬剤師が重要なのでしょうか?他の医薬品と同様、市販もされているPET医薬品ですが、実は多くの施設では自前で合成しています。PET医薬品は、結合している放射性物質の半減期が短いため、作ってすぐに使う必要があります。合成してから臨床使用に出すまでに行うべき各種検査も専門性が要求されるため、薬剤師による管理が特に重視される医薬品なのです。

具体的に言うと、日本核医学会の決まりでは、PET医薬品の管理責任者として、製造管理者、製造管理責任者、品質管理責任者を配置するように求めています。そのうち、特に直接製造を管理する製造管理者には薬剤師が望ましい旨が明記されています。薬剤師としては、医薬品合成から品質試験、管理までをすべて担える立場のため、薬のプロとしてのやりがいが大きい分野と言えます。

近年、PET検査を導入する病院やクリニックが増加し、患者数も増えているものの、製造管理者を担える薬剤師が不足しています。この分野に積極的にかかわることができれば、将来的に生き残っていける薬剤師になれると考えられます。自分で一から合成し、品質試験をした医薬品が臨床現場に出て行くので責任も重大ですが、臨床の大半を担うというやりがいのほうが大きいと思います。

筆者もこの立場の薬剤師として、日々業務に従事しています。薬剤師としては未知の部分も多いですが、やりがいも大きいと感じます。日本核医学会でも、PET医薬品に強い薬剤師を養成しようと、「核医学認定薬剤師」制度も発足させ、積極的に薬剤師の核医学への参入を後押しし始めました。他の専門・認定薬剤師同様、資格取得のハードルは高いですが、ぜひ知識だけでも少しずつつけてみてください。

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