超高齢社会の日本において、認知症患者は増加の一途をたどっています。今後薬剤師が認知症患者に接する機会はますます増えるでしょう。今回は認知症について理解を深めましょう。

認知症ともの忘れの違いは?

「認知症」という言葉ができたのは実は2004年のことです。それまでは「痴呆症」と呼ばれていましたが、侮蔑的な表現として問題となり、言い換えがなされました。

もの忘れと混合されがちですが、実は違う病態になります。おおまかに言うと、もの忘れは記憶の消失が問題になりますが、認知症の場合には記憶の消失に加えて、理解力や判断力の低下も見られます。

もっと詳しく比較すると、もの忘れは原因が加齢で、記憶に関しては体験の一部を忘れるという症状が見られるものの、時間や場所の見当はつき、忘れたことの自覚もあります。また、進行はなく、生活への大きな支障はありません。

一方、認知症の場合には、原因が認知機能の障害であり、記憶に関しては体験そのものを忘れてしまうだけでなく、時間や場所の見当もつかず、自覚がなく、症状も進行してしまい、生活にも支障が生じるという特徴があります。

記憶について具体的に表現すると、もの忘れの場合には、「昨日食べた昼食を思い出せない」という忘れ方ですが、認知症の場合には、「『昼食を食べた』という体験自体を忘れてしまう」という症状になります。こう考えると、もの忘れと認知症の区別が記憶消失の状態によってある程度判断できるということになります。

認知症の種類は?

認知症はその発生過程により、(1)「アルツハイマー型認知症」(2)「レビー小体型認知症」(3)「脳血管性認知症」などに分類されます。たくさんの種類があるものの、この3つがメインとなります。

(1)「アルツハイマー型認知症」は最も多いとされていて、認知症全体の半数以上を占めます。原因としては諸説あるものの、脳にアミロイドβやタウタンパクというタンパク質が異常に蓄積し、脳神経細胞の損傷や神経伝達物質が減少することで、脳全体が萎縮して引き起こされるという説が最も有力となっています。症状としては、記憶障害の他、見当識障害なども見られます。

(2)「レビー小体型認知症」は(1)「アルツハイマー型認知症」に次いで多いとされています。レビー小体という特殊なタンパク質が脳内に生じ、脳神経細胞が破壊されることで発症します。特徴としては、パーキンソン症状(手足の震えなど)が見られることです。

(3)「脳血管性認知症」は、脳卒中(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血など)による、脳の血管の詰まりや破れによって引き起こされる脳血管障害が原因で発症するものです。脳内において血流が障害されることで脳神経細胞が死滅し、認知症症状が発生します。症状としては、アルツハイマー型と同様な症状の他、血流障害が脳の広範囲に至ると、身体麻痺や言語障害を伴うこともあります。また、抑うつや感情のコントロールができなくなるなどの症状も見られることがありします。

認知症の治療法で大事なことは?

認知症のメカニズムには未だに多くの謎が残されているため、現在のところ、認知症の進行を完全に止める方法や、根本的な治療方法は残念ながら見つかっていません。認知症の治療はその進行を穏やかにすることや、QOL向上を目的として行われ、その種類には薬物療法と非薬物療法とがあります。

薬剤師であれば薬物療法と密接に関与するのは確かですが、実はより大事なのは非薬物療法のほうになります。特にQOL向上のために非薬物療法をしっかりと理解することが大事です。

非薬物療法としては、a.作業療法b.運動療法c.音楽療法d.回想法が代表的なものになります。
まずa.作業療法は、掃除や調理といった日常の作業を継続することが治療法になります。ポイントは、この際にリハビリを意識すると不安感や拒否感が高まってしまうので、できるだけ日頃からやっていた手慣れた業務を行うことが有効です。

次にb.運動療法は、本人が興味あるものを適度に行うことを意識します。運動しようと意識しすぎて過剰な運動を行うことは避ける必要があります。

c.音楽療法は、一人で音楽を聴きながら、ゆったりとした時間を過ごすことももちろん精神安定になりますが、家族や友人とカラオケボックスへ足を運んで一緒に歌うことも有益となります。

そして、d.回想法は会話しながらその方の人生を振り返ったり、写真や映像を見たりして過去を思い起こすことを通して、気持ちの安定を保ち、自信と誇りを取り戻すように導く方法です。この方法はa.作業療法のなじみの作業を行うことと組み合わせるとより有効です。

今後薬剤師も在宅などで非薬物療法にも関わる場面もでてくるかもしれません。非薬物療法は薬物療法に組み合わせることで、薬物療法を円滑に進めることができたり、使用薬物を少なくできたりというメリットにもつながる可能性もあるので、薬剤師として覚えておくと有用だと思います。ぜひ覚えておいてください。

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