事例で学ぶ 処方チェック コミュニケーション

CASE.6

歯科医師から高用量のサワシリン処方はなぜ?

  • 歯科
  • 循環器系
関連キーワード:
  • 用法・用量
  • 適応外使用
  • 抜歯
  • 感染性心内膜炎

難易度:★★

疾患名:感染性心内膜炎の予防(適応外使用)
  • 医薬品販売名:サワシリンカプセル250 ほか
  • 医薬品一般名:アモキシシリン水和物

問題

下記の事例において、何をチェックし、具体的には何が問題であり、
疑義照会する際はどのように伝えればよいでしょうか?

65 歳の女性患者。人工弁置換術を受け、循環器科に通っている。最近、歯科治療のため口腔外科も受診しており、以下が処方された。患者によると、歯科医師より「次回、抜歯をするので、予約の 1 時間前、13 時にサワシリンカプセルを 8 Cap 服用するように」という指示を受けたとのこと。なお、服用中のワーファリン錠はそのまま継続するようにとの指示も受けていた(※この問題では、チェックの対象外とします)。

<処方> 病院の口腔外科

  • サワシリンカプセル 250
    8Cap   1日1回 13時   1日分

チェックすべきことは? 何が問題?
解答・解説を見る

解答

チェックポイント

・アモキシシリンの用法・用量をチェックする。

問題点

アモキシシリンの承認された用法・用量(ピロリ菌除菌を除く感染症:1 回 250 mg を 1 日 3~4 回、ピロリ菌除菌:1 回 750 mg を 1 日 2 回)よりも高用量(1 回 2,000 mg、1 日 1 回)で処方されている。歯科領域における適応外処方(感染性心内膜炎の予防)である可能性が考えられる。

疑義照会

「サワシリンカプセルが処方された患者さんの用法・用量について、念のためご確認をお願いいたします。今回、サワシリンが 1 回 2,000 mg、1 日 1 回で 1 日分投与と、添付文書にない使い方となっております。患者さんは循環器科にもおかかりとのことですので、適応外での感染性心内膜炎に対する予防投与と考えてよろしいでしょうか。」

薬剤師の予測通り、歯科医師からの返答は感染性心内膜炎の予防のための処方であり、処方変更はなかった。

まとめ

・よくある適応外使用は把握しておく!
・適応外使用が想定されても、必ず医師に確認!

解答に必要な医薬品情報

サワシリンカプセルの添付文書
【用法・用量】
〈ヘリコバクター・ピロリ感染を除く感染症〉
成人:アモキシシリン水和物として、通常 1 回 250 mg(力価)を 1 日 3~4 回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
〈ヘリコバクター・ピロリ感染症、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎〉
・アモキシシリン水和物、クラリスロマイシン及びプロトンポンプインヒビター併用の場合
通常、成人にはアモキシシリン水和物として 1 回 750 mg(力価)、クラリスロマイシンとして 1 回 200 mg(力価)及びプロトンポンプインヒビターの 3 剤を同時に 1 日 2 回、7 日間経口投与する。なお、クラリスロマイシンは、必要に応じて適宜増量することができる。ただし、1 回 400 mg(力価)1 日 2 回を上限とする。
・アモキシシリン水和物、クラリスロマイシン及びプロトンポンプインヒビター併用によるヘリコバクター・ピロリの除菌治療が不成功の場合
通常、成人にはアモキシシリン水和物として 1 回 750 mg(力価)、メトロニダゾールとして 1 回 250 mg 及びプロトンポンプインヒビターの 3 剤を同時に 1 日 2 回、7 日間経口投与する。

もっと知る!

<感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン>[文献 1]
 感染性心内膜炎は、的確な診断のもとで適切な治療が奏功しないと多くの合併症を引き起こし、死に至る重篤な疾患である。多くの場合、何らかの基礎心疾患を有する患者が何らかの原因により菌血症を起こした際に発症し、菌血症を来す原因の多くは歯科治療を含めた小手術である。
 そのため、先天性疾患、弁膜疾患を含む感染性心内膜炎の発症が高いとされる患者には、抗菌薬の予防投与が推奨されている。ガイドラインでは、下表の抗菌薬を処置 1 時間前に内服することが推奨されている。

表.歯科、口腔手技および処置に対する抗菌薬による予防法[文献1]

対象 抗菌薬 投与量・投与方法
経口投与可能 アモキシシリン 成人:2.0 g*、小児:50 mg/kg を処置 1 時間前に経口投与
経口投与不可能 アンピシリン 成人:2.0 g、小児:50 mg/kg を処置前 30 分以内に筋注または静注
ペニシリンアレルギーがある場合 クリンダマイシン 成人:600 mg、小児:20 mg/kg を処置 1 時間前に経口投与
セファレキシン またはセファドロキシル 成人:2.0 g、小児:50 mg/kg を処置 1 時間前に経口投与
アジスロマイシン またはクラリスロマイシン 成人:500 mg、小児:15 mg/kg を処置 1 時間前に経口投与
ペニシリンアレルギーを有し経口投与不可能 クリンダマイシン 成人:600 mg、小児:20 mg/kg を処置前 30 分以内に静注
セファゾリン 成人:1.0 g、小児:25 mg/kg を処置前 30 分以内に筋注または静注

*体格、体重に応じて減量可能(成人では、30 mg/kg でも十分といわれている)

<海外のガイドライン>
 アメリカ心臓協会(AHA:American Heart Association)[文献 2]、欧州心臓病学会(ECS:European Society of Cardiology)[文献3]のガイドラインでは、歯科処置時の抗菌薬予防投与の対象症例を人工弁置換術後、感染性心内膜炎の既往例、先天性心疾患(未修復のチアノーゼ性先天性心疾患、術後 6 カ月以内)などに限定している。

文献)
1. 日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本小児循環器学会/日本心臓病学会. 感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2008 年改訂版)
2. Nishimura RA et al., J Am Coll Cardial. 70(2):252-289, 2017.
3. Habib G et al., Eur Heart J. 36(44): 3075-3128, 2015.

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  • 剤形
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