事例で学ぶ 処方チェック コミュニケーション

CASE.14

泌尿器科からのケフラールの長期処方の処方意図は?

  • 感染症
  • 泌尿器系
関連キーワード:
  • 用法・用量
  • 適応外使用
  • 予防的投与

難易度:★★

疾患名:尿路感染症
  • 医薬品販売名:ケフラール細粒小児用 100 mg、ケフラールカプセル 250 mg ほか
  • 医薬品一般名:セファクロル

問題

下記の事例において、何をチェックし、具体的には何が問題であり、
疑義照会する際はどのように伝えればよいでしょうか?

1 歳の女児(体重 10 kg)。高熱のため入院。尿路感染症と診断された。小児科と泌尿器科の両方にかかっていた。今回の処方は退院時処方で、泌尿器科からケフラール細粒が長期で処方された。

<処方> A 病院の泌尿器科

  • ケフラール細粒小児用 100 mg
    1 g(製剤量)  1 日 1 回 就寝前  14 日分

チェックすべきことは? 何が問題?
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解答

チェックポイント

・ケフラール細粒小児用の効能・効果や用法・用量をチェックする。

問題点

ケフラール細粒小児用は、泌尿器科領域で膀胱炎、腎盂腎炎の適応があり、用量・用法は、体重 kg あたり 1 日 20~40 mg(力価)を 3 回に分割で経口投与するとされている。今回の処方と比較して用量が少量であり、用法も 1 日 1 回と少ないことから、泌尿器科領域における適応外処方(尿路感染症の予防)である可能性が考えられた。

疑義照会

「ケフラール細粒が処方された患者さんの用法、用量について念のためご確認をお願いいたします。今回の処方は、添付文書の用量、用法よりも少なくなっており、処方日数は長期になっております。こちらは、尿路感染症に対する予防投与のための適応外でご使用と考えてよろしいでしょうか。」

医師は、膀胱尿管逆流を伴う再発性尿路感染の予防のために処方したとのことであり、処方変更はなかった。

まとめ

・よくある適応外使用は把握しておく!
・適応外使用が想定されても、必ず医師に確認!

解答に必要な医薬品情報

ケフラール細粒小児用の添付文書
【効能・効果】
<適応菌種>
本剤に感性のブドウ球菌属,レンサ球菌属,肺炎球菌,大腸菌,クレブシエラ属,プロテウス・ミラビリス,インフルエンザ菌
<適応症>
○ 膀胱炎,腎盂腎炎
【用法・用量】
通常,幼小児にはセファクロルとして体重 kg あたり 1 日 20~40 mg(力価)を 3 回に分割して経口投与する。なお,年齢,体重,症状等に応じ適宜増減する。

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<小児の尿路感染症の予防のための抗菌薬投与>
予防的抗菌薬投与は、初発の尿路感染症例で解剖学的な異常を認めないものに対しては推奨されないが、反復性尿路感染症例や有熱性尿路感染症、逆流の程度が高い膀胱尿管逆流症(vesicoureteral reflux :VUR)(文献 1)や膀胱機能障害を伴う症例、高度の尿路奇形などの解剖学的異常を伴う症例で、個々に検討される。
 乳児・小児における尿路感染症の予防は、海外では ST 合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム製剤)が主流となっているが、 本邦ではST 合剤は保険適応外である。
本邦では古くからセファクロルを用いる施設が多く(理由は不明)、セファクロルの膀胱尿管逆流症に対する明確な治療効果を示す報告はほとんど無いが、ガイドライン(文献 2)には、以下の処方例が記載されている。

処方例
● セファクロル 経口1 回 5~10 mg/kg・1 日1 回(眠前)
● ST 合剤 経口1 回(トリメトプリムとして)2 mg/kg・1 日1 回(眠前)

最近、小児におけるセファクロルの持続少量抗菌薬予防投与による再発抑制効果についての試験結果が報告されている(文献 3)。
その報告によれば、初発有熱性尿路感染症 126 例をセファクロル投与群(52 例)と非投与群(74例)に分け、尿路感染症再発の有無を 6 ヶ月以上経過観察したところ、セファクロル投与群で再発が有意に少なく、特に膀胱尿管逆流がある症例では、セファクロル投与群で再発が有意に少なかった(投与群の再発率 12% vs 非投与群の再発率67%、p<0.01)。
したがって、セファクロルの予防投与は、小児の尿路感染症の再発を抑制する可能性が示唆されたと結論づけられている。

<尿路感染症とは>(文献 2)
 尿路感染症には、腎盂腎炎などの上部尿路感染症(腎臓への細菌感染)と膀胱炎などの下部尿路感染症(膀胱、尿道の細菌感染)があり、その多くは、大腸菌などの直腸常在菌による逆行性(上行性)尿路感染である。また、明らかな基礎疾患が認められない単純性と、基礎疾患(前立腺肥大症、神経因性膀胱、尿路結石、尿路悪性腫瘍、尿路カテーテル留置や糖尿病・ステロイド内服などの全身性易感染状態)を有する複雑性とに分類される。

・腎盂腎炎
 腎盂腎炎は、尿路の逆行性感染により起こる有熱性尿路感染症である。集合管から腎実質までの組織破壊の波及により、血流感染を合併しやすい特徴をもち、急性単純性と基礎疾患を合併する複雑性とに分類される。小児の腎盂腎炎は乳幼児に好発し、その約半数が再発の危険があり、腎不全に至ることもある。基礎疾患を合併しない急性単純性腎盂腎炎は性的活動期の女性に好発し、原因菌は膀胱炎の原因微生物と同様である。抗菌薬療法の原則として、腎排泄型の薬剤を選択し、β-ラクタム系・キノロン系の抗菌薬などが推奨される。

・膀胱炎
 膀胱炎は、逆行性尿路感染により、頻尿、排尿痛、尿混濁、残尿感、膀胱不快感などが起き、通常、発熱は伴わない疾患である。膀胱炎も単純性と基礎疾患を有する複雑性とに分類されるが、複雑性膀胱炎の基礎疾患として、高齢者では尿路の悪性腫瘍や神経因性膀胱などが多く、小児においては尿路の先天異常が多い。女性の急性単純性膀胱炎では、閉経前と閉経後で原因菌が異なり、閉経前の女性には、β-ラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系薬、セフェム系薬、キノロン系薬いずれも有効と考えられ、原因菌が不明やグラム陽性球菌の場合には、キノロン系薬を第一選択される。閉経後の女性では、キノロン系耐性率が高い大腸菌が原因の場合が多く、β-ラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系薬、セフェム系薬が選択される。

・小児の尿路感染症(文献 1)
 小児の尿路感染症は、小児感染症のうち呼吸器感染症の次に多い一般的な感染症であり、乳児が多く罹患し、逆行性尿路感染による腹痛、頻尿、失禁などの症状を伴い、発熱を伴うこともある。乳幼児における熱源不明の発熱における尿路感染症の有病率は 5% 程度とされる。熱源不明の小児患者に対して抗菌薬投与が必要な場合は、投与前に検尿と尿培養を行うことが推奨されている。治療は、速やかな抗菌薬投与が推奨され、初期抗菌薬は大腸菌などの感受性を考慮して決定する。発熱を伴う小児の尿路感染症の抗菌薬治療は7~14 日間行うこともある。

文献)
1.日本小児外科学会 <一般の皆様<小児外科で治療する病気<泌尿生殖器<膀胱尿管逆流症(2018.6.25 アクセス)
2.一般社団法人日本感染症学会、公益社団法人日本化学療法学会:JAID/JSC 感染症治療ガイドライン 2015 -尿路感染症・男性性器感染症- (2018.6.19アクセス)
3.渡邊佳孝他,日児腎誌,30(1):21-24,2017.

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医薬品一般名:セファクロル

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疾患名:前立腺肥大に伴う排尿障害

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  • 用法・用量
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  • 剤形
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