事例で学ぶ 処方チェック コミュニケーション

CASE.23

閉経前乳がんにフェアストンが処方?

  • 悪性腫瘍
関連キーワード:
  • 効能・効果

難易度:★★

疾患名:乳がん
  • 医薬品販売名:フェアストン錠
  • 医薬品一般名:トレミフェンクエン酸塩

問題

下記の事例において、何をチェックし、具体的には何が問題であり、
疑義照会する際はどのように伝えればよいでしょうか?

患者は23歳の女性。乳がんのため乳腺外来で診察を受けている。
フェアストンは初めて服用する薬であり、医師からその薬について説明を聞いている。
さらに、フェアストンは当該薬局では初めて処方された薬剤であり、調剤者・鑑査者ともに投薬した経験がない薬剤であった。

<処方1>病院の乳腺外来、処方オーダリング

  • フェアストン錠40mg
    1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 40日分

チェックすべきことは? 何が問題?
解答・解説を見る

解答

チェックポイント

・フェアストンの適応症を確認する。

問題点

20歳代の女性(閉経前)に閉経後乳がんの治療薬のフェアストン錠が処方されている。

疑義照会

「20歳代の閉経前と思われる患者さんに、効能・効果が閉経後乳がんの治療薬のフェアストン錠が処方されています。平成19年9月に『「トレミフェンクエン酸塩」を「閉経前乳癌」に対し処方した場合、当該使用事例を審査上認める。』との審査情報提供が行われておりますが、この患者さんに、このまま投薬してもよろしいでしょうか?確認させてください。」

医師からの回答では、当該患者は病院においてすでにゾラテックスの注射で、閉経後状態にしており、処方に問題ないということであり、処方変更はなかった。

まとめ

・適応外使用や公知申請された効能・効果に関しての情報も取得する必要がある。
・医師の処方意図が不明な場合には、納得が行くまで疑義照会を行う。

解答に必要な医薬品情報

フェアストン錠は、閉経後乳がんに効能・効果を有する。
通常、成人にはトレミフェンとして40mgを1日1回経口投与するが、薬物療法及び放射線療法などに無効例に対しては、トレミフェンとして120mgを1日1回経口投与する。
詳細は最新の添付文書を参照されたい。

もっと知る!

トレミフェンはtriphenylethylene系の抗エストロゲン薬であり、タモキシフェンと同様にエストロゲン受容体(以下ER)に結合してER陽性乳がん細胞の増殖を抑制する。日本では1995年に導入され、閉経後再発乳がんにおいてタモキシフェンと同等の効果を示すことが証明されている。
トレミフェンが、「閉経後乳がん」のみの適応となった根拠は、以下に示すトレミフェンの第II相臨床試験(用量設定試験、40,60,120mg/日および240mg/日)(癌と化学療法,20:79-90,1993)の結果から得られた。この試験の結果では、薬物療法、放射線療法などの前治療がないか、または、術後補助療法後に再発した症例に対する奏効率は、40mg/日で24.1%、60mg/日で13.8%、120mg/日で20.0%、240mg/日で40.0%であった。40mg/日群では、奏効例はすべて閉経後の症例であった。一方、60mg/日群では閉経前にも奏効1例(1/10)が認められた。また120mg/日および240mg/日では閉経前で1例(補助療法後に再発した症例)有効であった。また、120mg/日群における補助療法中再発例および既治療例で1例(1/8)のみ閉経前で奏効を示したが、240mg/日では閉経前では奏効はみられなかった(0/9)。
以上、閉経前の症例でも治療効果は認められているが、閉経前乳がんの症例が十分でなく、有用性を示すに至らなかった。
わが国より以前にすでに承認を受けていた欧州では「閉経後乳がん」が対象とされており、また、先の臨床試験の結果からも、日本でも「閉経後乳がん」のみの適応となった。

その後、平成19年9月21日に、『「トレミフェンクエン酸塩」を「閉経前乳癌」に対し処方した場合、当該使用事例を審査上認める。』との審査情報提供が行われた。

最近、術後アジュバント治療もしくは進行再発乳癌治療でタモキシフェンと比較した臨床試験(RCT10試験を含む)のメタアナリシスが行われているが、原発性乳癌の再発抑制効果、生存期間、進行再発乳癌に対する治療効果は両群ほぼ同等であったことが報告されている(文献1)
本事例で使用された性腺刺激ホルモン放出ホルモン(LH-RH)アゴニストは、一過性の性腺刺激ホルモンおよび性ホルモンの上昇のあと、LH-RHレセプターの減少および脱感作が起こり、血液中のエストロゲンレベルは閉経状態にまで低下する。閉経前乳癌の治療薬として、本邦ではゾラデックス<ゴセレリン>、リュープロレリン<リュープリンR>があり、若年症例ではタモキシフェンまたはトレミフェンとの併用が一般的である(文献2)。

1.MustonenMVetal.,Toremifeneinthetreatmentofbreastcancer.WorldJClinOncol,
5(3):393-405,2014.
2.坂東裕子,【選択的性ステロイドホルモン受容体修飾薬】選択的エストロゲン受容体修飾薬と乳癌,HORMONEFRONTIERINGYNECOLOGY,23(1):49-55,2016.

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