事例で学ぶ 処方チェック コミュニケーション
CASE.20
UFTからTS-1への切り替え方法は?
- 新生物 (腫瘍)
- 関連キーワード:
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- 休薬期間
難易度:★★★
- 疾患名:胃癌
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- 医薬品販売名:
(1)ユーエフティ E 配合顆粒 T100/T150/T200・カプセル T100
(2)ティーエスワン配合カプセル T20/T25・顆粒 T20/T25・OD 錠 T20/T25 - 医薬品一般名:
(1)テガフール・ウラシル
(2)テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
- 医薬品販売名:
問題
下記の事例において、何をチェックし、具体的には何が問題であり、
疑義照会する際はどのように伝えればよいでしょうか?
<処方1>8月23日 A病院 消化器科 手書き処方せん
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- ラックビー微粒N
- 3g 1日3回 毎食後 4日分
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- エクセラーゼ配合錠
- 3錠 1日3回 毎食直後 4日分
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- ユーエフティE配合顆粒T100
- 1.5g 1日3回 毎食後 4日分
<処方2>8月26日 A病院 消化器科 手書き処方せん
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- ラックビー微粒N
- 3g 1日3回 毎食後 10日分
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- エクセラーゼ配合錠
- 3錠 1日3回 毎食直後 10日分
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- ティーエスワン配合カプセルT20
- 4Cp 1日2回 朝夕食後 10日分
8月27日より服用開始
チェックすべきことは? 何が問題?
解答・解説を見る
解答
チェックポイント
・ユーエフティ<テガフール・ウラシル>からティーエスワン<テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム>への変更方法を確認する。
問題点
ティーエスワンにはギメラシル (フルオロウラシルの代謝酵素である DPD (ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ) の阻害薬) が含有されているため、ユーエフティから休薬期間がないままティーエスワンを服用すると、血中フルオロウㇻシル濃度が上昇し、副作用が出現する可能性が高くなる。
疑義照会
「ユーエフティからティーエスワンへ変更になった患者さんですが、直ちに切り替えるような処方内容になっております。休薬期間が短い場合、前の薬剤であるユーエフティに由来するフルオロウラシルの代謝が、ティーエスワンに含有されているギメラシルにより阻害され、血中フルオロウラシル濃度が遷延することによって有害事象が発現するおそれがあります。したがって、最低7日間程度あけてからティーエスワンの投与を開始する必要があります。」と疑義照会したところ、以下に処方変更となった。
<処方3>8月26日 A病院 消化器科 手書き処方せん
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- ラックビー微粒N
- 3g 1日3回 毎食後 10日分
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- エクセラーゼ配合錠
- 3錠 1日3回 毎食直後 10日分
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- ティーエスワン配合カプセルT20
- 4Cp 1日2回 朝夕食後 3日分
9月3日より服用開始
まとめ
・ユーエフティからティーエスワンへの切り替えの時は、用法用量および適切な休薬期間が設けられているのか確認する必要がある。
解答に必要な医薬品情報
処方医にユーエフティからティーエスワンへ処方変更する際は、適切な間隔をあける必要があること、また他のフッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍薬投与中止後、ティーエスワン投与開始までの期間が短い場合や休薬期間がない場合には、重篤な血液障害や下痢、口内炎などの消化管障害などが発現する可能性があることを説明する必要がある。
休薬期間が短かった場合、前の薬剤に由来するフルオロウラシルの代謝が、ティーエスワンに含有されているギメラシルにより阻害され、血中フルオロウラシル濃度が遷延することによって有害事象が発現するおそれがある。
抗悪性腫瘍薬については、併用禁忌の組み合わせのみならず、投与スケジュールについても、十分チェックする必要がある。特に、必要な休薬期間については見逃されやすいので、注意する必要がある。また、他のフッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍薬からティーエスワンへの処方変更に際しては、患者に、以前使用していた薬が残っていないかどうかを確認し、残っていても決して併用しないように指導することも必要である。ティーエスワンから他のフッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍薬への切り換えについては、休薬期間の必要性は広く認識されているが、今回の症例のような逆のケースについても、休薬期間の必要性を十分認識する必要がある。
もっと知る!
他のフッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍薬からティーエスワンへの切り換えについて、ティーエスワンの添付文書には具体的な休薬期間は明記されていないが(「適切な間隔をあけて」という記載はあり)、インタビューフォーム[文献1]には、適切な間隔(目安として7日間以上)をあけることが必要と記載されている。その理由としては以下のことが考えられている。
1)他のフッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍薬の投与中止後、ティーエスワン投与開始までの期間が短い場合(休薬期間なしの症例も含まれている)に、重篤な血液障害や消化管障害などが発現している報告例が多かった。フルオロウラシル肝動注(10日間)施行終了2日後にティーエスワン(120mg/日)の投与を開始し、6日目に口内炎が発現し、白血球減少、血小板減少などに至った症例が報告されている。
2)ティーエスワンの前に投与されていた薬剤の影響を考慮して、適切な間隔をあけてから投与を開始することが、重篤な副作用発現を防止するための1つの方法と考えられる。
3)他のフッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍薬投与中止後、間隔をあけてティーエスワンを投与するということによって、両薬剤の併用防止につながると考えられる。
詳細は、文献1を参照されたい。
当該患者のようにユーエフティ1日3Capを継続服用していた場合、服用中止後、血中フルオロウラシル(5-FU)濃度、テガフール濃度がどのように推移するのかシミュレーションした(8時間ごとに服用すると仮定した)。また、パラメータは癌患者における血中濃度推移データ(癌と化学療法,7(9):1558-1568,1980)から算出した値を用いた)。最終服薬から100時間経過すると、血中5-FU濃度、テガフール濃度はそれぞれ最終服薬時のCmaxの約1/4,800、約1/1,400に低下する。つまり、腎機能が正常な患者においては、最終服薬から100時間経過すれば、血中濃度は十分低下すると考えられる。
以上より、ティーエスワンの前に投与されていたフッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍薬の体内からの消失に要する期間、さらに安全性を考慮して、前に投与されていた薬剤の影響がないと判断されるのに要する期間、という観点で適切な休薬期間について考えると、7日間という設定は適切であると考えられる。
[文献]
1.ティーエスワン配合カプセルT20,T25,ティーエスワン配合顆粒T20,T25,ティーエスワン配合OD錠T20,T25インタビューフォーム(2017年10月改訂-改訂第24版-)(平成30年10月17日アクセス)
- 重複投与
疾患名:鼻かぜ
医薬品一般名:d-クロルフェニラミンマレイン酸塩、ジヒドロコデインリン酸塩/dl-メチルエフェドリン塩酸塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩